研究課題
若手研究(B)
我々は、炎症性腸疾患患者の免疫グロブリンIgGに結合する糖鎖において、健常者に比してガラクトースが著明に減少すること,また、ガラクトース転移酵素欠損マウスにおける検討において、細胞表面の糖鎖変異に伴う ポリラクトサミン鎖を介したB細胞とマクロファージの直接的な相互作用の結果、マクロファージのIL-10 産生 が増加することが、腸炎の軽減に寄与することを見いだした。この研究成果を発展させ、ガレクチン‐ポリラクトサミン系をはじめとした、細胞表面に発現し抗炎症に働く と考えられる「制御性糖鎖」に着目し、腸管炎症に及ぼす影響を詳細に検討することで、制御性糖鎖による炎症 性腸疾患の新しい病態解明を目指す。また、炎症性腸疾患患者の免疫担当細胞の糖鎖構造や、糖鎖変化に影響を及ぼす臨床的背景因子を明らかにす ることで、糖鎖に着目した炎症性腸疾患治療の可能性を追求する。Beta-1,4-ガラクトース転移酵素-I (B4galt1)欠損マウスにおいて、B細胞やマクロファ ージにおけるポリラクトサミン鎖の発現が増加し、ガレクチン-1の架橋による相互作用が腸炎の軽減に寄与していることを報告した(Gastroenterology. 2012)。この成果をもとに、制御性T細胞/B細胞 、M2マクロファージ等、腸管免疫に保護的に働くと考えられる免疫担当細胞に着目し、糖鎖改変モデルマウスの 制御性免疫担当細胞に多く発現する糖鎖構造および糖鎖合成に関わる糖鎖関連タンパク質を解析し、制御性糖鎖に結合するタンパク質のリガンド特定を進行中である。また、B4galt1の他にも、腸炎に関わる糖転移酵素として、α1,6-フコース転移酵素 (Fut8)やN-アセチルグルコサミン転移酵素 V(GnT-V)等にも着目し同様の検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
B4galt1欠損マウスの免疫担当細胞における、制御性糖鎖に結合するタンパク質のリガンド同定は順調に進んでいて、現在網羅的な解析に向けた準備を進めている。しかしながら、レクチンと糖タンパク質に対する結合能は、抗原抗体反応に比べて非常に弱く、親和性も低いことから、解析結果の評価および標的タンパク質の絞込みにはかなり難渋することが予想される。一方、患者検体の収集は順調にすすんでおり、今後も継続していく予定である。
前年に引き続き、糖鎖改変モデルマウスの制御性免疫担当細胞に多く発現する糖鎖構造および糖鎖合成に関わる糖鎖関連酵素を同定するとともに、同定した制御性糖鎖にリガンドを作用させ、免疫担当細胞におけるサイトカイン産生や増殖能等を検討する。制御性糖鎖として最も治療効果の高いターゲットとなりうる系を検討する。また、 炎症性腸疾患患者における制御性糖鎖と臨床経過との関連については、前年度から継続してサンプル収集を行い、患者由来免疫担当細胞における糖鎖発現を検討するとともに、患者の免疫担当細胞を制御性糖鎖に対するリガンドで刺激し、サイ トカイン産生能や増殖能等を検討する。得られたデータは、臨床背景や経過との関連との比較検討を行い、制御 性糖鎖と疾患との関連につき詳細に解析する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
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