研究課題
我々は、炎症性腸疾患患者の血清免疫グロブリンIgGに結合する糖鎖において、健常者に比してガラクトースが著明に減少すること(Am J Gastroenterol 2008)、また、ガラクトース転移酵素欠損マウスにおける検討により、細胞表面の糖鎖変異に伴う ポリラクトサミン鎖を介したB細胞とマクロファージの直接的な相互作用の結果、マクロファージのIL-10 産生 が増加することが、腸炎の軽減に寄与することを見いだした(Gastroenterology. 2012)。この研究成果を発展させ、ガレクチン‐ポリラクトサミン系をはじめとした、細胞表面に発現し抗炎症に働く と考えられる「制御性糖鎖」に着目し、腸管炎症に及ぼす影響を詳細に検討することで、制御性糖鎖による炎症 性腸疾患の新しい病態解明を目指す。また、炎症性腸疾患患者の免疫担当細胞の糖鎖構造や、糖鎖変化に影響を及ぼす臨床的背景因子を明らかにすることで、糖鎖に着目した炎症性腸疾患治療の可能性を追求する。Beta-1,4-ガラクトース転移酵素-I (B4galt1)欠損マウスにおける腸炎の軽減には、B細胞やマクロファ ージにおけるポリラクトサミン鎖の発現が増加し、ガレクチン-1の架橋による相互作用が寄与していた。この成果をもとに、制御性T細胞/B細胞 、M2マクロファージ等、腸管免疫に保護的に働くと考えられる免疫担当細胞に着目し、糖鎖改変モデルマウスの 制御性免疫担当細胞に多く発現する糖鎖構造および糖鎖合成に関わる糖鎖関連タンパク質を解析している。また、B4galt1の他にも、腸炎に関わる糖転移酵素として、α1,6-フコース転移酵素 (Fut8)やN-アセチルグルコサミン転移酵素 V(GnT-V)等にも着目し同様の検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
免疫担当細胞における、制御性糖鎖に結合するタンパク質のリガンド同定を継続しておこなっており、現在網羅的な解析に向けた準備を進めている。しかしながら、レクチンと糖タンパク質に対する結合能は、抗原抗体反応に比べて非常に弱く、親和性も低いことから、解析結果の評価および標的タンパク質の絞込みにはかなり難渋することが予想される。一方、糖転移酵素であるFut8やGnT-Vの機能解析については順調に推移しており、論文化を目指して現在準備中である。
前年に引き続き、糖鎖改変モデルマウスにおける免疫担当細胞の機能解析を行い、腸管炎症制御に関わる因子について検討を継続する。制御性糖鎖として最も治療効果の高いターゲットとなりうる系を検討する。また、 炎症性腸疾患における制御性糖鎖と臨床経過との関連については、患者検体における制御性糖鎖の標的物質の発現を検討するとともに、患者の免疫担当細胞を制御性糖鎖に対するリガンドで刺激し、サイ トカイン産生能や増殖能等を検討する。得られたデータは、臨床背景や経過との関連との比較検討を行い、制御性糖鎖と疾患との関連につき詳細に解析する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件)
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