研究実績の概要 |
CGRP(calcitonin gene-related peptide)は、強力な血流増加作用とともに、骨髄細胞の誘導、炎症性サイトカインの抑制作用をもつ神経ペプチドである。我々は、潰瘍性大腸炎(UC)動物モデルを用いた実験(急性モデルとしてデキストラン硫酸(DSS)大腸炎、慢性モデルとしてHLA B27トランスジェニックマウスを使用)で白血球除去療法(LCAP)の作用メカニズムを検討し、LCAPが内在性CGRPの産生誘導を介して腸炎改善効果を発揮することを報告してきた。一方、ヒトUCの病変局所ではCGRP発現量の低下がみられることが最近報告され、CGRPがUCの病態形成に直接関与していることが示唆されている。このような背景から、CGRPの投与がUCの新たな治療戦略となることが期待される。またバイオマーカーとしてのCGRPの可能性についても検討した. 最終年度は, (1)引き続きヒトUC患者および健常人からPBMCを分離し、CGRP発現をRT-PCR法で検討した。(2)ヒトUC患者に対しLCAPを施行し、サイトカイン発現、CGRPの発現の変化を検討した. その結果, (1)ヒト活動期UC患者では、健常人に比べてPBMCでのCGRP発現が有意に低下していた。(2)ヒトUC患者に対するLCAPによりLCAP前後でIL-1,IL-6,TNF-α発現の低下、CGR発現量の改善がみられた. CGRPがUCの病態形成に関与していることが示唆された。結論として,前年度の結果と合わせ, CGRP投与は、腸粘膜血流の増加・骨髄細胞の誘導による組織修復効果と、炎症性サイトカイン産生抑制による抗炎症効果の両面からの腸炎改善効果を発揮し、UCの新たな治療戦略となる可能性があり、CGRPの測定がUCの診断・治療のバイオマーカーとなる可能性があることが示唆された。これらの研究により神経ペプチドCGRPとその関連薬剤が従来の薬剤と異なる作用メカニズムをもつUCの治療薬となる可能性があること、CGRPの測定がUCの診断・治療のバイオマーカーとなる可能性があることを初めて見出した。
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