研究課題
若手研究(B)
膵臓癌は毎年新たに約23,000人が診断され、従来の手術、化学療法、放射線治療に抵抗性を示すため極めて予後不良の悪性腫瘍である。さらに、膵臓癌は現在の診断技術では早期発見が難しいため進行期で診断されることが多く、近年増加傾向にある事からも、膵臓癌に対する新規治療法の開発が早急に望まれている。本研究の目的は研究代表者等が確立した細胞表面膜タンパク質に対する定量的プロテオミクス手法を用いて膵臓癌の抗体医薬品開発の標的となる癌抗原を同定し、腫瘍の増殖との関係の解明及び癌抗原に対するモノクローナル抗体の開発と動物モデルでの抗腫瘍効果を証明することである。本年度において、定量的プロテオーム解析を行う事で正常ヒト膵臓皮細胞と比較して、膵臓癌細胞株にて高発現する膜タンパク質のスクリーニングを行った。膵臓癌細胞株として、AsPC1、BxPC3、Capan-1、 Capan-2、MIAPACA2、PANC1、Suit2の7種類、コントロール細胞として、正常ヒト膵臓上皮細胞を用いて細胞表面膜タンパク質のビオチン標識とアビジンビーズによる濃縮、トリプシン消化した後、iTRAQ試薬によるペプチドの標識と質量分析計による測定により、各種細胞における細胞表面膜タンパク質の網羅的な定量解析を行った。その結果、767種類のタンパク質を同定し、262種類(34.16%)の細胞表面膜タンパク質が含まれていた。同定されたタンパク質の中にはメラノサイトと比較してAsPC1、BxPC3、Capan-1においてEGFRがAsPC1においてMETが2倍以上に高発現していることが確認された。その他に、膵臓癌に対する新規癌抗原候補分子を数種類検出することに成功した。現在、iTRAQ解析により得られた新規癌抗原候補分子についてウェスタンブロット法などの手法により検証中である。
2: おおむね順調に進展している
計画予定通り、7種類の膵臓癌細胞株、および、正常ヒト膵上皮細胞の細胞表面膜タンパク質をiTRAQ法により網羅的に定量解析することにより、膵臓癌に対する癌抗原候補タンパク質を複数種類同定した。同定されたタンパク質の中には、抗体医薬品の標的分子として他の腫瘍で治験が実施されているMETなど受容体も含まれていた。即ち、抗体医薬標的分子の探索において本手法の有用性が示された。現在、膵臓癌抗原候補分子について癌抗原としての検証のステップを進めている。候補タンパク質について膵臓癌抗原としての有用性が検証できれば、モノクローナル抗体の開発とゼノグラフトモデルを用いた癌治療実験へと進める。
本研究によりiTRAQ解析から同定された膵臓癌に対する癌抗原候補タンパク質が正常ヒト膵上皮細胞と比較して膵臓癌細胞株にて高発現する事をウェスタンブロット法により検証する。膵臓癌細胞株において高発現が確認されたタンパク質について、市販抗体を用いて膵臓癌手術組織に対して免疫組織化学染色法により染色を行う。膵臓癌抗原候補タンパク質が膵臓癌組織において高発現することが確認出来た場合、モノクローナル抗体の開発に着手する。独自に樹立したモノクローナル抗体について、表面プラズモン共鳴(SPR)測定により高親和性のクローンを選別する。また、フローサイトメトリーにより抗体の反応性も確認する。さらに、モノクローナル抗体を大量精製し、免疫不全マウスの皮下に移植した膵臓癌細胞株のゼノグラフトモデルに対する抗腫瘍効果をコントロール抗体と比較することで検証する。
購入予定の薬品の在庫がなかったため。次年度の研究計画に組み込んで使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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