本研究の目的は、臨床例に即した冠攣縮性狭心症動物モデルであるヒトR257H亜型PLC-delta 1血管平滑筋特異的過剰発現マウス(PLC-TGマウス)を用いて、カルシウムイオンの動態に関わる細胞内シグナル伝達機構を解析することにより、カルシウム拮抗薬による冠攣縮抑制効果の作用機序を明らかにすることである。 生後24週前後のPLC-TGマウスにおいて、経静脈的エルゴノビン投与により、体表面心電図にてST上昇ならびに房室ブロックが観察され、冠攣縮が誘発された。冠攣縮性狭心症の治療薬であるカルシウム拮抗薬(ジルチアゼム60 mg/kg/日)をPLC-TGマウスに14日間飲水中に連続投与することにより、冠攣縮は抑制された。一方、カルシウム拮抗薬による降圧の影響を除外するため、コントロール群として他の降圧薬(トリクロルメチアジド1 mg/kg/日)を用いて同様の実験を行ったが、冠攣縮は抑制されなかった。2種の降圧薬投与において、降圧の程度に差を認めなかった。PLC-TGマウスの大動脈における電位依存性L型カルシウムチャネルの蛋白発現をWestern blot法にて検討した。野生型と比較し、その発現は減少していたが、カルシウム拮抗薬投与により、その減少は有意に改善した。さらに活性型の電位依存性L型カルシウムチャネルはリン酸化されているが、カルシウム拮抗薬はそのリン酸化を抑制した。以上のことから、電位依存性L型カルシウムチャネルの発現ならびにリン酸化の変化が冠攣縮の病態に関与していることが示唆され、カルシウム拮抗薬によるL型カルシウムチャネルリン酸化の抑制が、冠攣縮を抑制する機序の一つである可能性が示された。
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