本研究では心肥大の病態生理における自然炎症の役割及びその分子機構の解明を目指した。まず、自然免疫受容体であるToll様受容体2(TLR2)に着目し、その圧負荷心肥大における役割を検討した。野生型及びTLR2ノックアウト(TLR2KO)マウスの心臓に大動脈縮窄術による圧負荷を加えると、TLR2KOマウスでは代償性心肥大の誘導が障害され、心不全となることが分かった。細胞実験では、TLR2特異的リガンドを心筋細胞、線維芽細胞及び血管内皮細胞に負荷すると、転写因子NF-κB及び炎症性サイトカインIL-1β依存性に心筋細胞肥大及び線維芽細胞増殖、血管内皮細胞増殖を誘導することができた。実際、野生型マウスにNF-κB阻害薬やIL-1βに対する中和抗体を投与すると、圧負荷に対する代償性心肥大が障害された。また、細胞実験及び動物実験において、熱ショック蛋白質(HSP)70がTLR2シグナルを活性化し、圧負荷後の心組織における炎症反応及び代償性心肥大の誘導に重要な役割を果たすことが分かった。以上から、細胞外HSP70により誘導されるTLR2を介した非感染性炎症反応が、心臓の代償性心肥大の誘導に重要な役割を果たすことが分かった。 次に、NOD様受容体の形成するNLRP3インフラマソームに着目して検討した。野生型及びNLRP3ノックアウト(NLRP3KO)マウスに圧負荷を加えると、NLRP3KOマウスでは心組織におけるIL-1βの産生が抑制され、代償性心肥大の誘導が障害された。以上より、代償性心肥大の誘導に重要であるIL-1βの産生には、TLR2シグナルに加えてNLRP3インフラマソームの活性化が必要であることが分かった。 本研究の成果により、心肥大における自然炎症の重要性が明らかとなった。今後、その制御機構のさらなる解明が、高血圧性心疾患や心不全の新たな治療法の開発につながるものと考えられる。
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