研究課題
若手研究(B)
大動脈瘤は、破裂や、解離に至るとその多くが致命的であるため、根治には侵襲的な手術治療を要する。しかしながら、近年多重リスクを抱えた手術治療が困難な高齢患者が増加しており、早期発見と瘤増大の抑制が重要課題となっているが、大動脈瘤形成・進展の機序は十分に解明されておらず、また予防につながる効果的な治療はまだ開発されていない。我々は組織内におけるトロンビン活性(組織トロンビン系)を特異的に阻害する作用を有するヘパリンコファクターII(HCII)が、動脈硬化性疾患や高血圧心などにおいて多面的な心血管保護作用を発揮することが報告されている。そこで本研究において、我々は大動脈瘤におけるHCIIの関与を検証する事により、HCIIの大動脈瘤病態発症予知および病態進展抑制因子としての可能性を探索する。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、年齢等の粥状動脈硬化の危険因子を有する患者を対象として血漿HCII活性を測定し、大動脈瘤の有無と血中HCII活性との関係を検証する。また、大動脈瘤で通院している症例についても、HCII活性を測定し、経時的な大動脈瘤径の増大との関係を検討する。本年の研究目標は「大動脈瘤形成・進展と血漿HCII活性の相関および臨床的意義についての検討」とし、大動脈瘤の患者の瘤径の増大とともに、破裂・解離などのイベントと血漿HCII活性との間に相関がみられるか否かを検討する。徳島大学病院の倫理員会の承認を得て、大動脈瘤患者の血液サンプルを採取し、凍結保存を行っている。大動脈瘤の有無ならびに瘤径の増大の評価は、CT画像を用いている。症例数が十分に集まり次第サンプルのHCII活性を測定し、血漿HCII活性および一般的な動脈硬化リスクを変数に組み入れた多変量解析を行い、血漿HCII活性が、大動脈瘤の存在や瘤径増大に独立して寄与しているか否かを明らかにする。
3: やや遅れている
徳島大学病院の倫理委員会承認から、研究実施まで時間を要した。倫理委員会承認後、臨床サンプルの採取は問題なく始まっている。また、動物モデルを用いた大動脈瘤の形成・進展におけるHCIIの抑制効果とその作用機序ついても倫理委員会の承認を得られ、現在実験開始のための準備を行っている。
小動物(HCII欠損マウス)を用いて大動脈瘤モデルを作製し、分子生物学的手法によって大動脈瘤の病態形成におけるHCIIの意義について検証する。また、同時にHCII投与による大動脈瘤形成抑制作用の有無を検証し、その作用機序の検討を行う。また摘出した動脈瘤を用い血管局所での組織変化に関する検討を行い、HCIIの作用機序に関する検討を行う。特にこの大動脈瘤形成マウスモデルでは、大動脈瘤の形成に酸化ストレス増大の関与が大きいことが知られていることから、DHE染色による大動脈組織での活性酸素の産生についても検討する。さらにアンジオテンシンIIによる血管壁での主な活性酸素産生源であるNADPH oxidaseについて、それぞれのコンポーネントの発現をreal time quantitive PCRで評価するとともに、活性酸素産生において最も重要と考えられているRac-1活性をpull-down assayにより評価し、これらに対するHCIIの効果について検討する。これらの研究手法で、HCIIが組織トロンビン系を抑制を介して、組織レニン・アンジオテンシン系活性化による血管組織での活性酸素産生を抑制によって、大動脈瘤の形成・進展を抑制することを明らかにする。
研究計画に変更が生じたため必要な実験試薬の購入
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