研究課題
若手研究(B)
臨床研究として、冠動脈疾患を合併した2型糖尿病患者においてジペプチジルペプチターゼ(DPP)-4阻害剤が内皮機能保護効果を示すかどうか検討した。冠動脈疾患を合併し、コントロール不十分の2型糖尿病患者をスクリーニングし、状態の安定しているときに、血管内皮機能を測定し、血管内皮機能障害のある患者、40人を対象とした。通常治療強化群とDPP4阻害薬であるシタグリプチン投与群(シタグリプチン50mg/日)の2群として、開始前と約6ヶ月後に血管内皮機能を測定し比較検討した。平均6ヵ月の治療にてHbA1cは両群とも同程度に改善した(シタグリプチン投与群:-0.65±0.20%、通常治療強化群:-0.67±0.20%、P=0.95)。血管内皮機能は血糖改善効果により、両群とも有意に改善したが、シタグリプチン投与群にてより有意に改善した(改善率;62.4±59.2% vs. 15.9±22.0%、P<0.001)。また、高感度CRPは通常治療強化群では治療前後で変化を認めなかったが(P=0.49)、シタグリプチン投与群では有意に低下しており(P<0.01)、内皮機能改善度と高感度CRPの変化量は有意に相関していた(r=-0.326、P<0.05)。以前、我々はマウスを用いた動物実験や細胞実験にてDPP4阻害剤により内因性の活性型グルカゴン様ペプチド(GLP)-1の効果を高め、eNOSの増強効果や抗炎症効果を示しており、また、今研究でもシタグリプチン投与群にて高感度CRPが有意に低下しており、血糖改善効果によらない血管内皮機能改善効果にDPP4阻害薬によるeNOS増強効果、抗炎症効果が寄与している可能性が考えられた。このように冠動脈疾患合併糖尿病患者において、DPP4阻害剤による血糖改善効果をこえた血管内皮機能改善効果が示され、DPP4阻害剤が心血管疾患への保護的な作用を示す可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
DPP4阻害剤を用いた血管内皮機能に関する臨床研究は、すでに論文化し、Circulation Journalに掲載された。ApoE欠損マウスを用いて、DPP4阻害剤による動脈硬化退縮実験を現在行っている。DPP4阻害剤にて退縮傾向があるようであるが、有意差がつくまでにはいたっておらず、マウスを増やして検討中である。
引き続き、マウスを用いた動脈硬化退縮実験を進める。組織学的評価や、炎症促進性M1マクロファージから炎症抑制性M2マクロファージへのphenotypic polarity shift が認められるかどうかを検討する。それと並行して、細胞実験にて血管内皮細胞とマクロファージにおいてDPP4阻害剤、GLP-1によるAMP-activated protein kinase (AMPK)活性化を検討する。また、AMPKを介して、抗炎症効果、内皮機能改善効果があるが、拮抗薬やsiRNAを用いて検討する。
マウスを用いた動脈硬化退縮実験は現在進行中であり、対象数を増やしているところである。次年度に繰り越す分は、すでにサンプリングした血清等の測定に使用する予定であった。現在、実験中のサンプルと同時に提出し、測定する予定である。次年度分はマウスや飼料等、また、細胞実験の消耗品や抗体等の購入費にあてる予定である。
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