研究課題/領域番号 |
25860611
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
神津 英至 札幌医科大学, 医学部, 助教 (60596609)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 心不全 / 拡張機能障害 |
研究概要 |
本年度は、2型糖尿病心筋における急性負荷に対する左室応答、およびその機序として細胞骨格蛋白titinと心筋代謝の変化に焦点を当てて解析した。2型糖尿病モデルラットであるOLETFでは、フェニレフリンによる急性圧負荷時に拡張末期圧-容積関係(EDPVR)の左上方へのシフトがおこり、コントロールラットであるLETOに比べ、有意に拡張末期圧(EDP)が上昇した。一方で、急性容量負荷では両群でEDPVRは右方へシフトし、EDPの上昇は認めなかった。OLETFでは軽度高血圧を合併するが、LETOに腎血管性高血圧を発症させた高血圧性肥大心モデルでは、圧負荷に対するEDP上昇は認めなかった。摘出灌流心標本において、titinの蛋白発現およびPKAによるリン酸化をPro-Qダイアモンドによるゲル染色にて評価した。PKA刺激薬であるドブタミンはOLETF、LETO両群において、トロポニンIやミオシン結合蛋白Cのリン酸化を増加させたが、主要なisoformであるN2B titinのリン酸化は増加させなかった。更に、摘出灌流心標本において、OLETFでは灌流圧を上昇させるとEDPが増加したが、心保護液による心静止下では、圧-容積関係はLETOと同等であった。次に、急性圧負荷が心筋代謝に及ぼす影響を、メタボローム解析にて評価した。OLETFでは圧負荷にて、ATPおよび総アデニンヌクレオチド量の低下とともに、AMPの代謝物であるIMPが増加した。OLETFの心筋では、AMP deaminase活性が、LETOに比べ有意に増加していた。心筋ATP含量は、左室等容弛緩時定数(tau)およびEDPと負の相関を認めた。以上の結果から、糖尿病心筋では、圧負荷時に過剰なアデニンヌクレオチド分解によりATP供給が減少し、左室伸展性が低下することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急性負荷に対する左室機能応答に関して、OLETFが臨床における収縮能の保たれた心不全(HFPEF)と同様の応答を呈するモデルであることが確認できた。2型糖尿病における、細胞骨格蛋白titinの発現や修飾の変化についても基本的なデータを得ることができた。また、メタボローム解析により、cross-bridgeサイクルの重要な規定因子である心筋エネルギー代謝について、新知見を得る事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
2型糖尿病心は拍動下において、後負荷増大に対する拡張機能の感受性が亢進しており、その機序として細胞外基質や細胞骨格の変化ではなく、AMP deaminase活性の亢進を介したATP供給能の低下が関与しているとの成績を得た。今後は、糖尿病心筋にてAMP deaminase活性が亢進する機序、およびAMP deaminaseに対する介入が糖尿病心筋におけるエネルギー代謝および心機能を改善させるかに関して、遺伝子改変マウスも用いて研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
現存のラット用圧-容積カテーテルで実験が可能であったため新規に購入しなかったこと、本年度はAmerican Heart Association Scientific Sessionでの発表を行わなかったため旅費を使用しなかったため、残額が生じた。 今年度の成績をうけて今後遺伝子改変マウスを用いた実験も計画しており、糖尿病モデルマウスにて再現実験を行う予定である。動物の購入や飼育、マウス用の圧-容積カテーテル・人工呼吸器・実験試薬の購入、学会旅費(ヨーロッパ心臓学会年次集会、アメリカ心臓協会年次集会)、論文投稿のための費用として使用する予定である。
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