本研究は、老化や動脈硬化の一要因として注目される酸化ストレスにより誘発される不整脈への根本的治療介入の道を実験的に検証することを目的としている。 まず、心筋の過酸化状態における不整脈基盤の形成を検証するため、心筋特異的な活性酸素種の過剰状態を引き起こすL-buthionine-sulfoximine投与心筋/骨格筋特異的スーパーオキサイドジスムターゼ2ヘテロ欠損マウスを用いて実験を行った。同モデルにて心筋の過酸化状態が胎児蛋白を含むKチャネル関連因子の発現を減少させ、催不整脈性を増加させる電気的リモデリングを引き起こすことを明らかにし、研究成果は論文発表として報告した。 一方、胎児蛋白制御因子であるセマフォリン3A(Sema3A)は心臓領域では交感神経系の形成などへの関与が示唆されているが、不整脈基盤や病的心筋に対する逆リモデリング効果については検討されていない。病的心筋の構造的・機能的・電気的リモデリングに対する根本的で新たな治療概念を確立するため、新たに交感神経系の過負荷により生じる不全心筋実験モデルであるイソプロテレノール(ISP)負荷マウスモデルを確立してSema3Aによる治療介入実験を行った。 ISP負荷にて左心室は拡大し、左室収縮能の低下をきたした。電気生理学検査では特に心筋単相性活動電位20%回復時間の延長をきたし、交感神経過剰状態による不全心筋モデルとしてのISP負荷マウスモデルの妥当性を評価できた。 今後は心筋治療に適切なSema3A投与量を検証した上で、Sema3Aによる治療効果の機序を解明する。これまでにISP負荷マウスモデルで示されたリモデリングの機序には心筋のカリウムチャネルを中心としたイオンチャネルやカルシウムハンドリングの変化が関与するものと推察される。さらに交感神経系の構造的・機能的変化を解析し、学会発表・論文発表にて報告する予定である。
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