研究課題/領域番号 |
25860619
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
江頭 徹 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (10465023)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 疾患特異的iPS細胞 / 心筋細胞分化誘導 / QT延長症候群 |
研究概要 |
これまで私は難治性致死的不整脈の新規治療の開発に繋がる病態解明を目的に、患者(疾患)特異的iPS細胞技術を用いた研究を行ってきた。孤発例のQT延長症候群症例に関し、患者から樹立したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞の電気生理学的解析を行うことにより、病的臨床所見と合致する不整脈現象の再現に成功し、カリウムチャネルの細胞膜への輸送障害により引き起こされる外向きカリウム電流の減少が病態に寄与していることを明らかにし、本症例をQT延長症候群1型と診断した。またそれに伴い、効果的な薬剤としてβ遮断薬の本症例への有効性も確認することができた。 このように病気の発生機序の解明と治療薬の効果判定が可能な疾患iPS細胞の実験手法を利用し、QT延長症候群における実臨床への有益なフィードバックを目的とし、さらなる研究を進めた。 QT延長症候群は、心筋細胞イオンチャネルの様々な障害が主体となり発症すると考えられている。当初、QT延長症候群1型にフォーカスして解析を進める予定としていたが、病態のリスク層別化という観点から、他のイオンチャネルの解析系を確立したのちに包括的な病態のリスク評価が可能になると考えた。 私は、ナトリウムチャネルの異常で発症するQT延長症候群3型、および心筋細胞内カルシウム濃度と密接な関連が示唆され、静止膜電位の規定に重要な役割を果たすカリウムチャネル(IK1)の異常で発症するQT延長症候群7型に着目し、これまで我々が確立した疾患iPS細胞技術を用いて解析を進めた。パッチクランプ法やカルシウムイメージング法を利用し、ナトリウム電流の異常や心筋細胞内のカルシウム代謝の異常も検出できることを確認した。本解析結果から表現型の原因と思われる分子に着目し、介入を加えることで疾患の治療につながる知見を見出すべく、研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初QT延長症候群1型の解析を進める予定としていたが、QT延長症候群のリスク層別化を目的とした場合、心筋細胞の電気生理学的現象を理解するうえで、他のイオンチャネルの動態を総合的に評価することが必要であると考え、ナトリウム電流、カルシウム電流の異常が示唆される疾患群の解析系を先行させることとした。 iPS細胞から分化誘導した心筋細胞のナトリウムおよびカルシウム代謝の解析法が徐々に確立され、疾患の表現型の再現の成功、原因分子の同定に近づきつつあり、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
iPS細胞から分化誘導した心筋細胞はヒトの心筋細胞であり、生理的な心筋細胞環境に近いことが知られているが、不均質な要素もあるため、表現型等の実験結果の傾向の妥当性を評価するために、各々の実験回数を繰り返し重ねていく必要がある。 また、昨今のヒトES、iPS細胞における遺伝子改変技術の革新があり、本研究においても責任遺伝子の修復などを行い、表現型の改善が得られるかなどを検討し、疾患発症の分子機序をより詳細に評価できればと考えている。 またそれらの知見から病因として予想される分子に関し、機能改善を図る薬剤や低分子化合物などを探索し、本研究系を通じて新規治療の開発に繋がるよう努める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に施行予定であった2名の患者からのiPS細胞樹立実験が、事務手続き上の理由で平成26年度に持越しとなっため。 同2名の患者よりiPS細胞の樹立および心筋細胞分化誘導を行うため、主に細胞培養用の培地、血清、遺伝子導入ベクター、添加サイトカイン、細胞培養用ディッシュ等の器具に使用する予定である。
|