研究課題
若手研究(B)
平成25年度は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)症例の血栓内膜摘除術により摘出された組織と肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)の移植あるいは剖検時に得られた肺組織を用い、正常コントロール肺組織(肺癌等の症例の摘出肺)を対象として、thrombinの受容体であるprotease activated receptor 1 (PAR1)の発現様式を免疫組織染色法により比較した。その結果、正常コントロール肺ではPAR1の発現は肺動脈の内皮細胞に限局しているのに比べ、CTEPHとPAH症例の肺組織では、内皮細胞のみならず、SMA陽性細胞でもPAR1が発現していることが見出された。CTEPH症例の肺動脈から分離培養したSMA陽性細胞に対してthrombinを投与したところ、細胞増殖が誘導された。そこで、各種の細胞内シグナル伝達分子を解析したところ、thrombin刺激によりAkt/mTOR経路が活性化を受けることが観察された。さらに、thrombinの存在下でAkt/mTOR阻害薬を投与したところ、アポトーシスが誘導されるとともに、細胞増殖も抑制された。また、Fura-2AMを用いて細胞内カルシウム動態を解析したところ、thrombin刺激により細胞内カルシウム濃度の上昇が認められた。さらに、thrombin阻害薬を投与したところ、細胞内カルシウム濃度の上昇が抑制され、同時に細胞増殖も低下した。これらの結果から、CTEPHの肺血管リモデリングにおいて、thrombinとその受容体を介したAkt/mTOR経路とカルシウムシグナリングが重要である可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
マイクロアレイにより、各種細胞におけるRNAの発現パターンの変化を確認することや、PAR1の発現をwestern blottingによりタンパク質レベルで確認することを予定していたが、実験に適した条件や抗体の選定に時間を要した。このため、当初の実験計画を一部変更し、次年度に予定していた細胞内カルシウム濃度測定を行った。この結果、研究実績の概要に記載したとおり、thrombinを介したAkt/mTOR経路とカルシウムシグナリングの重要性を示すデータが得られており、計画は概ね順調に進行していると判断した。
これまでに、マウス等を用いた実験によりPDGFやBMP、低酸素が肺高血圧症を誘発することが知られている。さらに、一部のPAH症例ではBMPR2の遺伝子異常が見いだされており、PAHの発症の原因となる血管のリモデリングに、BMPシグナル伝達経路の不活化が関与することが示唆されている。また、細胞レベルでも上記の各種刺激が肺高血圧症の疑似状態を誘導することが報告されている。申請者は前年度の研究により、CTEPH症例の肺動脈より単離したSMA陽性細胞(CTEPH-SMA陽性細胞)においてthrombinが増殖を誘導し、その過程でAkt/mTOR経路の活性化とカルシウム上昇が重要な役割を担うことを示唆する結果を得ている。そこで、本年度はCTEPH細胞を用いて、thrombinの作用の詳細とBMPシグナリング、低酸素の効果を明らかにすることを目的として以下の実験を計画している。1)CTEPH-SMA陽性細胞にthrombin刺激を加え、各種mRNAやmicroRNAの発現パターンを解析する。2)CTEPH-SMA陽性細胞にthrombin刺激を加え、細胞周期や各種の細胞周期の調節分子の発現を検討する。3)thrombin阻害薬やAkt/mTOR阻害薬、カルシウム拮抗薬などを用いて、各種の細胞内シグナル伝達分子、カルシウム動態、各種のmRNAやmicroRNA発現の調節機構を詳細に検討する。4)CTEPH-SMA陽性細胞にBMPや低酸素による刺激を単独、またはthrombinと同時に加え、細胞の増殖や各種シグナル伝達分子、カルシウム動態、遺伝子発現パターンを解析する。5)thrombin阻害薬やPAR1をターゲットとしたsiRNAを用いてthrombinシグナルを不活化し、thrombinによる細胞増殖誘導を指標として肺高血圧疑似状態を抑制することが可能かどうかを検討する。
平成25年度にマイクロアレイによる解析を予定していたが、その条件決定に時間を要した。また、各種細胞におけるPAR1の発現をwestern blottingによりタンパク質レベルで確認することを予定していたが、実験に適した抗体の選定に時間を要したために研究材料の納期が遅れ、一部の試薬が平成26年度の納品となった為、研究費の残高が生じた。マイクロアレイの選定について時間を要したが、すでにほぼ条件が決定しており、近く発注可能となる見込みである。また、western blottingに適した抗体の選定は前年度内にほぼ終了し、既に4月以降一部納品されてきている。次年度使用額分となった昨年度の予算と本年度の予算は、上記の試薬等と、さらに本年度検討予定であるBMPシグナル伝達系の分子の発現を確認するための抗体や、PCR試薬や培養試薬・培養用物品等の購入等に充てる予定である。
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