研究実績の概要 |
当該年度は上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に対する肺癌細胞の薬剤耐性化獲得機序を解明するために研究に取り組んだ。まず上皮-間葉移行(epithelial-mesenchymal transition:EMT)に着目したがEGFR-TKI投与により肺癌細胞株のEMT様の変化が発生しなかった為、EGFR-TKIにより誘導される薬剤耐性クローン(drug-tolerant persisters: DTPs)の構成成分に着目して実験を進めた。EGFR遺伝子変異陽性肺癌細胞株(PC9)にEGFR-TKIを暴露させると経時的に幹細胞マーカー(Oct3/4, Sox2, Nanog, c-Myc, CD44)の発現が上昇することをqRT-PCRで確認した。さらにDTPsの状態の肺癌細胞を細胞老化の染色法の一つであるSA-β-gal染色を行うと陽性に染まる細胞を6割程度に認めEGFR-TKI刺激により肺癌細胞株において細胞老化も誘導されることが示唆された。以上より申請者らはEGFR-TKI投与後に残存するDTPsが癌幹細胞と細胞老化を起こした細胞の少なくとも2種の異なる細胞群で形成されることを発見した。 申請者らがこれまでに行ってきた研究からDTPsには癌幹細胞と老化細胞が含まれている可能性が強く示唆されている。現在のところ耐性株を標的とした薬剤開発が進んでいるが未だ十分な成果は得られておらず耐性株の出現を防止する治療法の開発も進んでいないのが現状である。その原因として再発の途中段階であるDTPsから生成してきた肺癌再発組織ではEGFR-TKIに耐性になっているだけではなく癌組織の多様性も再度獲得されていることがあらゆる抗癌剤への耐性につながっている可能性がある。本研究では遷移状態であるDTPsの排除を行うことで、再発の阻止を目指している。これまでDTPsを標的とした治療戦略は存在せずDTPsの解析についてもほとんどなされていない点で我々の研究は意義深い。さらに、この研究は肺癌診療の改善と肺癌死の克服に寄与する可能性があり、非常に重要な研究であると考えられる。
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