特発性肺線維症急性増悪の人種差に着眼した病態解明と新規バイオマーカー開発

2014 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 25860646
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 大下 慎一郎 広島大学, 大学病院, 講師 (50508132)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: 国際研究者交流 / ドイツ / 急性呼吸不全 / 指定難病 / 予後 / 生存率

研究実績の概要

2014（平成26）年度は，昨年度の成果を発展させ，日本人とヨーロッパ人における特発性肺線維症急性増悪の発症頻度が異なることに基づき，その原因となる遺伝子の検索を継続した．間質性肺炎の患者肺組織をマイクロアレイ解析した結果から，特発性肺線維症において発現が上昇している分子を同定し，その中から，膜タンパク・分泌タンパクをコードしている遺伝子の選定を行った．また，日本人とヨーロッパ人の両人種のゲノムを用いて，両者で発現頻度の異なる遺伝子多型および特発性肺線維症急性増悪の発症頻度・生命予後との関連を比較検討した．その結果，細胞寿命に関与しているテロメラーゼ逆転写酵素（Telomerase Reverse Transcriptase (TERT)）および血管新生に関与しているアンジオポエチン-2（Angiopoietin-2）の遺伝子多型発生頻度が，日本人とヨーロッパ人で異なっており，この多型は特発性肺線維症急性増悪の発症予測因子となることを見出した．
また，臨床データにおける予測因子についても解析を継続しており，本年度は，高分解能CTにおける特定所見の発現頻度が両人種で異なり，かつ特発性肺線維症急性増悪の発症予測因子であることを明らかにした．
本年度の主な成果は，①日欧の異なる人種のコホートおよびゲノムを用いた解析により，指定難病である特発性肺線維症の急性増悪には，日本人・ヨーロッパ人の間において明らかな人種差が存在していることを明らかにした点．②その原因として，TERT・Angiopoietin-2遺伝子多型が関与している可能性を明らかにした点，③高分解能CTの画像所見には，急性増悪の発症を予測する因子があることを明らかにした点の３点である．本年度の成果を踏まえて，特発性肺線維症急性増悪の疾患感受性分子の同定を進め，その分子を標的とした新規治療薬の開発を進めていく方針である．

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究成果により，特発性肺線維症において急性増悪を繰り返すサブセットが存在する可能性を，人種の異なる２つのコホートを用いることにより，これまでの知見よりもより詳細に解明できた．そして，その原因因子の解明を臨床レベル・分子レベルの双方から進め，TERT・Angiopoietin-2遺伝子多型が強く関与していることを明らかにした．現在，特発性肺線維症急性増悪の原因遺伝子を特定することまで進められており，本研究の達成度はおおむね順調と考える．

今後の研究の推進方策

日本人・ヨーロッパ人のゲノム解析をさらに継続して実施するのと並行して，現在，特発性肺線維症急性増悪患者の血清中に高発現しているタンパクの同定も行っているところである．今後は，同定されたタンパクと特発性肺線維症急性増悪の発症予測・重症化・致死性との相関解析を進め，新たなバイオマーカーとしての有用性を確立する予定である．

次年度使用額が生じた理由

予定額よりも安価に試薬を購入できたため．

次年度使用額の使用計画

昨年度に引き続き，ELISA，SNP解析などの試薬費用として使用する予定である．

研究成果

• [雑誌論文] Baseline KL-6 predicts increased risk for acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis. (2014)
  • 著者名/発表者名: Ohshimo S, Ishikawa N, Horimasu Y, Hattori N, Hirohashi N, Tanigawa K, Kohno N, Bonella F, Guzman J, Costabel U.
  • 雑誌名: Respir Med 巻: 108 ページ: 1031-1039
  • DOI: 10.1016/j.rmed.2014.04.009.
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Differences in serum SP-D levels between German and Japanese subjects are associated with SFTPD gene polymorphisms. (2014)
  • 著者名/発表者名: Horimasu Y, Hattori N, Ishikawa N, Tanaka S, Bonella F, Ohshimo S, Guzman J, Costabel U, Kohno N.
  • 雑誌名: BMC Med Genet 巻: 15 ページ: 4
  • DOI: 10.1186/1471-2350-15-4.
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [学会発表] 間質性肺炎急性増悪における体外式膜型人工肺（ECMO）の有用性 (2015)
  • 著者名/発表者名: 大下慎一郎，木田佳子，太田浩平，京 道人，島谷竜俊，儀賀普嗣，小山和宏，稲川嵩紘，鈴木 慶，山賀聡之，田邉優子，大谷直嗣，貞森拓磨，宇根一暢，津村 龍，岩崎泰昌，廣橋伸之，服部 登，河野修興，谷川攻一
  • 学会等名: 日本医工学治療学会 第31回学術大会
  • 発表場所: 広島
  • 年月日: 2015-03-27 – 2015-03-29
• [学会発表] 救急・集中治療領域における呼吸管理 (2015)
  • 著者名/発表者名: 廣橋伸之 大下慎一郎 谷川攻一
  • 学会等名: 日本医工学治療学会 第31回学術大会
  • 発表場所: 広島
  • 年月日: 2015-03-27 – 2015-03-29
  • 招待講演
• [学会発表] ECMO有効活用へ向けた当院の取り組み (2015)
  • 著者名/発表者名: 大下慎一郎
  • 学会等名: 第42回 日本集中治療医学会学術集会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 2015-02-09 – 2015-02-11
  • 招待講演
• [学会発表] 間質性肺炎急性増悪におけるECMOの有用性 (2015)
  • 著者名/発表者名: 木田佳子，大下慎一郎，太田浩平，山賀聡史，鈴木慶、岩崎泰昌，廣橋伸之，谷川攻一
  • 学会等名: 第42回 日本集中治療医学会学術集会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 2015-02-09 – 2015-02-11
• [学会発表] 非HIV患者の重症ニューモシスチス肺炎に対する体外式膜型人工肺の有用性 (2015)
  • 著者名/発表者名: 太田浩平，大下慎一郎，木田佳子，山賀聡之，鈴木慶，稲川嵩紘，宇根一暢，岩崎泰昌，廣橋伸之，谷川攻一
  • 学会等名: 第42回 日本集中治療医学会学術集会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 2015-02-09 – 2015-02-11
• [学会発表] アナフィラキシーにおける凝固異常の検討 (2015)
  • 著者名/発表者名: 山賀聡之，大下慎一郎,木田佳子, 太田浩平，大谷直嗣，宇根一暢，岩崎泰昌，廣橋伸之，秀 道広，谷川攻一
  • 学会等名: 第42回 日本集中治療医学会学術集会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 2015-02-09 – 2015-02-11
• [学会発表] 敗血症診断におけるPresepsinの有用性の検討 (2015)
  • 著者名/発表者名: 鈴木 慶, 大下 慎一郎, 京 道人, 小山 和宏, 田邊 優子, 稲川 嵩紘, 太田 浩平, 岩崎 泰昌, 廣橋 伸之, 谷川 攻一
  • 学会等名: 第42回 日本集中治療医学会学術集会
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 2015-02-09 – 2015-02-11
• [学会発表] Prognostic indicators for patients with acute respiratory failure treated with high-frequency oscillatory ventilation (2015)
  • 著者名/発表者名: Yuko Tanabe, Shinichiro Ohshimo, Yoshiko Kida, Kei Suzuki, Satoshi Yamaga, Kohei Ota, Kazunobu Une, Koichi Tanigawa
  • 学会等名: 44th Critical Care Congress
  • 発表場所: Phoenix, Arizona, USA
  • 年月日: 2015-01-17 – 2015-01-21
• [学会発表] Correlation of intracellular histamine and clinical symptoms in anaphylactic patients. (2015)
  • 著者名/発表者名: Satoshi Yamaga, Satoshi Morioke, Shinichiro Ohshimo, Kei Suzuki, Yasumasa Iwasaki, Nobuyuki Hirohashi, Michihiro Hide, Koichi Tanigawa.
  • 学会等名: 44th Critical Care Congress
  • 発表場所: Phoenix, Arizona, USA
  • 年月日: 2015-01-17 – 2015-01-21
• [学会発表] GAP index as a predictor of acute exacerbation in idiopathic pulmonary fibrosis. (2014)
  • 著者名/発表者名: Shinichiro Ohshimo, Yasushi Horimasu, Francesco Bonella, Chihiro Yamaoka, Hiroshi Iwamoto, Kazunori Fujitaka, Yoshinori Haruta, Hiroshi Murai, Hironobu Hamada, Noboru Hattori, Nobuyuki Hirohashi, Koichi Tanigawa, Josune Guzman, Ulrich Costabel, Nobuoki Kohno
  • 学会等名: 3rd Combined WASOGBAL Meeting, 11th WASOG Meeting and 13th International Conference on BAL
  • 発表場所: Kusadasi, Turkey
  • 年月日: 2014-10-08 – 2014-10-11
• [学会発表] Angiopoietin-2 Gene Polymorphism as Prognostic Factor in Caucasians with Idiopathic Pulmonary Fibrosis (2014)
  • 著者名/発表者名: Shinichiro Ohshimo, Yasushi Horimasu, Francesco Bonella, Hiroshi Iwamoto, Nobuhisa Ishikawa, Kazunori Fujitaka, Yoshinori Haruta, Hiroshi Murai, Noboru Hattori, Nobuyuki Hirohashi, Koichi Tanigawa, Josune Guzman, Ulrich Costabel, Nobuoki Kohno
  • 学会等名: European Respiratory Society International Congress 2014
  • 発表場所: Munich, Germany
  • 年月日: 2014-09-06 – 2014-09-10
• [学会発表] Potential value of KL-6 in various interstitial lung diseases - New Aspects of the Clinical Value of Biomarkers in Diffuse Lung Diseases (2014)
  • 著者名/発表者名: Shinichiro Ohshimo
  • 学会等名: European Respiratory Society International Congress 2014
  • 発表場所: Munich, Germany
  • 年月日: 2014-09-06 – 2014-09-10
  • 招待講演
• [学会発表] 高頻度振幅換気（HFOV）が有効なARDS患者をいかに選択するか - ARDS に対する換気様式の選択 (2014)
  • 著者名/発表者名: 大下慎一郎，太田浩平，板井純治，山賀聡之，木田佳子，西田 翼，儀賀普嗣，小林靖孟，稲川嵩紘，大谷直嗣，宇根一暢，貞森拓磨，津村 龍，岩崎泰昌，廣橋伸之，河野修興，谷川攻一
  • 学会等名: 第36回 日本呼吸療法医学会学術総会
  • 発表場所: 秋田
  • 年月日: 2014-07-19 – 2014-07-20
  • 招待講演
• [学会発表] Impact of Ethnic Difference and TERT Gene Polymorphisms in the Acute Exacerbation of Idiopathic Pulmonary Fibrosis (2014)
  • 著者名/発表者名: Shinichiro Ohshimo, Nobuhisa Ishikawa, Yasushi Horimasu, Kazunori Fujitaka, Yoshinori Haruta, Hiroshi Murai, Noboru Hattori, Francesco Bonella, Josune Guzman, Ulrich Costabel, Nobuoki Kohno
  • 学会等名: American Thoracic Society 2014 International Conference
  • 発表場所: San Diego, California, USA
  • 年月日: 2014-05-16 – 2014-05-21
• [学会発表] Impact of Ethnic Difference and TERT Gene Polymorphisms in the Acute Exacerbation of Idiopathic Pulmonary Fibrosis. (2014)
  • 著者名/発表者名: Shinichiro Ohshimo, Nobuhisa Ishikawa, Yasushi Horimasu, Kazunori Fujitaka, Yoshinori Haruta, Hiroshi Murai, Noboru Hattori, Francesco Bonella, Josune Guzman, Ulrich Costabel, Nobuoki Kohno.
  • 学会等名: The 54th Annual Meeting of The Japanese Respiratory Society
  • 発表場所: Osaka, Japan
  • 年月日: 2014-04-25 – 2014-04-27
• [学会発表] 人工呼吸管理の羅針盤～ゴールデンスタンダードを求めて～：新しいモニターシステム・画像・血清マーカー (2014)
  • 著者名/発表者名: 大下慎一郎
  • 学会等名: 第54回 日本呼吸器学会学術講演会
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 2014-04-25 – 2014-04-27
  • 招待講演
• [学会発表] 急性呼吸不全におけるWearable-ECMO開発への取組み (2014)
  • 著者名/発表者名: 大下慎一郎，堀益 靖，太田浩平，岩本博志，石川暢久，髙橋秀暢，白石正夫，金指正言，都留稔了，Mattausch, Hans Juergen，三浦道子，谷川攻一，河野修興
  • 学会等名: 第54回 日本呼吸器学会学術講演会
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 2014-04-25 – 2014-04-27
• [学会発表] Serum KL-6 levels is associated with long-term prognosis in lung transplant recipients (2014)
  • 著者名/発表者名: Bessa V, Ohshimo S, Weinreich G , Bonella F, Costabel U, Kamler M, Teschler H, Sommerwerck U.
  • 学会等名: International Society for Heart & Lung Transplantation 34th Annual Meeting
  • 発表場所: San Diego, California, USA
  • 年月日: 2014-04-10 – 2014-04-13