喫煙刺激による細胞老化の亢進は、創傷治癒遅延や老化関連分泌現象(SASP)により慢性閉塞性肺疾患(COPD)病態で重要な役割を果たす。クラスIIIのヒストン脱アセチル化酵素であるSIRT6は抗老化作用を示す可能性がある。我々は、SIRT6により制御されるオートファジーの喫煙誘導性細胞老化での役割を検討した。 結果、肺組織をCOPD、non-COPDsmoker、non-smokerに分け、ホモジナイザーを用いて肺組織の融解液を作成しSIRT6、老化の指標としての p21、オートファジー分解の指標として p62 の発現をそれぞれ検討した。結果COPD肺ではSIRT6発現は有意に低下し、p21の発現からは老化の亢進が示唆された。またp62の発現亢進からは、オートファジーによる分解が不十分であることが明らかとなった。さらにSIRT6の発現量は呼吸機能の1秒率と正の相関を示しており、COPD病態へのSIRT6の関与が示唆された。ヒト気道上皮細胞を用いて検討から喫煙刺激がSIRT6の発現を低下させることが明らかとなった。タバコ抽出液(CSE)刺激が誘導する細胞老化を、SIRT6が抑制することは、過剰発現やノックダウンによる検討から明らかになった。またSIRT6のHDAC活性を失った変異SIRT6(H133Y)過剰発現による検討から、SIRT6による抗老化作用にはHDAC活性が必要であることが明らかとなった。SIRT6はオートファジーを亢進させ、その機序の少なくとも一部はIGF-Akt-mTORシグナル伝達の抑制によることが明らかとなった。またオートファジーの亢進及びIGF-Akt-mTORシグナル伝達の抑制に、SIRT6のHDAC活性が必要であることも明らかとなった。LC3とATG5のノックダウンによるオートファジー阻害はSIRT6過剰発現による抗老化作用を消失させた。以上の検討から、SIRT6はIGF-Akt-mTORシグナル伝達の抑制により、オートファジーを調整し、COPD病態における細胞老化の制御に関与する可能性が示唆された。
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