研究課題
特発性肺線維症(IPF)は原因不明の緩徐進行性線維化疾患であり,有効な治療法は限られている.死亡原因は急性増悪が最も多く,メカニズムの解明やバイオマーカーの開発が期待されている.我々は,以前より細胞の分化・増殖という観点でWNT/β-cateninシグナルに注目し,WNT10Aの過剰発現は細胞増殖を強く誘導することを報告した.しかし,肺内におけるWNT10Aの役割については不明のままであった。今回,我々はIPFにおける線維化とWNT/β-cateninシグナルの関与について検討した.まずブレオマイシン肺臓炎モデルマウスを作成し,肺内におけるWNT10Aの発現局在について調べた.また,ヒト線維芽細胞(LL97A, IMR-90)を用いて,TGF-β1とWNT10Aの関連性について検討した.さらに,外科的肺生検で組織診断が得られたIPF患者30名を対象とし,WNT10A発現と予後との関連について検討を行った(倫理委員会番号:H26-004).ブレオマイシン肺臓炎モデルマウスでは,線維芽細胞にWNT10Aが強く発現していた.また,ヒト線維芽細胞(LL97A, IMR-90)に対しTGF-β1(5ng/ml)で刺激を行ったところ,WNT10AのmRNAは強く誘導され,転写調節領域の活性も確認された.また,SiRNAを用いて特異的にWNT10Aの発現を阻害すると,細胞外基質の産生は抑制された.IPF患者における肺組織のWNT10Aの免疫染色では,in vivoの実験と同様に線維芽細胞に発現が確認されたが,染色程度は個々の症例によって異なっていた.WNT10Aが強く染色される患者群においては,明らかに予後不良であり,急性増悪の発生と関連していた.
2: おおむね順調に進展している
肺の線維化の関連については既に実験が終了しているが,WNT10Aノックアウトマウスについては,骨異常や創傷治癒遅延があり,長期生存が難しく,一部ブレオマイシンによる侵襲実験の継続が停滞しているため。
WNT10Aノックアウトマウスを使用した実験を継続する。また,各専門家に指示を仰ぎながら,WNT10A関連タンパクの検出についても考察を加える。
WNT10Aノックアウトマウスに対する実験が遅延したため。また,WNT10A関連タンパクの検出に時間を要したため、当初予定していた実験を遂行できなかった。
現在、学内の倫理申請を再提出しており,受理された後に実験を再開する予定である。また,WNT10A関連タンパクについては,測定を行っている段階である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Respiratory Research
巻: 15 ページ: -
10.1186/s12931-014-0109-y.