研究課題
若手研究(B)
この研究の最終目標は、低血清培養脂肪由来幹細胞(LASC)の臨床応用である。今回の研究では、次の2点を目的として設定している。1.網羅的検索により抽出された再生促進因子をsiRNA にてノックダウンさせることにより、LASC を介する腎再生の分子メカニズムを探求する。2.LASC による他家移植の実用化に関する基礎的検討を行う。現在行われている研究は、LASCの実用化を目指した基礎的検討である。我々が従来使用してきたLASCはウシ胎児血清(FBS)を使用したものであり、臨床応用に向け動物資源の排除が求められる。そのため、ヒト由来の血清を使用したLASC(HS-LASC)の基礎的解析を行った。市販されている健常人由来血清を購入し、まずはHS-LASCの増殖能について検討を行った。血清は抗体による細胞への影響を除去するために、AB型ドナーの血清を用いることとした。従来のLASCとHS-LASCの細胞播種日から次回の継代日までの日数に差はなく、細胞がコンフルエントになった際に1dishから回収できる細胞数を比較した。結果として、細胞増殖のスピード、1dish中の細胞数、継代可能なpassage、いずれにおいても大きな差は認められなかった。続いて、LASCのサイトカイン分泌能に関しても検討を行った。従来のLASCの重要な規格の一つである肝細胞増殖因子(HGF)分泌能についてELISA法にて比較を行った。結果として、HGF分泌能に大きな差は認められなかった。ただし、HGF分泌能については、脂肪検体のドナー差が非常に大きいことを示す結果が得られた。このため、臨床応用を目指し性能の安定したLASCを作成するには、血清の種類と脂肪ドナーの双方の条件を明らかにする必要があると考えられた。
3: やや遅れている
LASCの腎再生に関する分子メカニズムの解析が遅れていると考える。LASCの臨床応用を目指すなかで、ヒト血清を使用したHS-LASCの樹立を優先していることが一因と思われる。HS-LASCに関しては、増殖能やHGF分泌能に関する結果が得られているものの、まだ検体数が少ない。今後、異なる脂肪ドナーやヒト血清でのHS-LASCの再現性の検証が必要である。安定したHS-LASCを確立した後に再生促進因子の網羅的検索、及び特定の因子に関して、特異的siRNA を導入したノックダウン細胞の作成を目指したい。
今後の研究の推進に関しては、臨床応用可能なLASCの培養方法の確立を目指しつつ、LASCの再生メカニズムの検討を行っていきたい。その意味で、当初の研究目的は維持されているものと考えている。本検討ではLASCを得るためのprimary cultureはFBSを用いて行っているため、ヒト血清を用いても同等のLASCを作成できるか検討を行っていく必要がある。また、市販されているAB型血清の多くは欧米人がドナーであるため、邦人のAB型血清でも同様の結果が得られるのか(人種間による差)、AB型以外のドナー血清でも培養が可能か、ボランティアドナーより血清サンプルを集めて検討を行う予定である。サイトカインアレイについては従来の低血清培養法で既に実施済みでノウハウも得ているため(抗体アレイ)、今回も同様の方法で検証を行うことにしていたが、より精度が高いとされるビーズによるアレイ法を行うことを検討している。またこれにより、脂肪ドナーごとにLASCの性能が大きく異なる要因を解析していく予定である。
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