研究課題
若手研究(B)
申請者は糖尿病性腎症における自然炎症の役割について検討を行う中で、腎組織レニン・アンジオテンシン(RA)系と自然炎症の一端を担うMRP8/TLR4シグナルにクロストークが存在する可能性を見出してきた。このクロストークメカニズムを検討するにあたり、当初MRP8の主要産生細胞であるマクロファージ(Mf)へのアンジオテンシンII(AII)直接刺激効果を想定して検討を行ったが、その効果が十分確認できなかった。そこでin vivoの腎組織浸潤Mfを詳細に検討したところ浸潤MfのMRP8陽性率が尿細管間質に比べて糸球体では明らかに高値を示したことから、Mfと糸球体内在細胞との細胞間クロストークの存在が想定された。実際、Mfをメサンギウム細胞、近位尿細管細胞と共培養したところ、Mfはメサンギウム細胞と共存したときのみ、MRP8発現が強力に誘導されることが明らかとなった。この糸球体内細胞間クロストークの役割については今後、本研究課題で作製しているMRP8 conditionalノックアウトマウスを用いて詳細な検討を行う予定である。また、STZ糖尿病マウスへのAII投与により糸球体MRP8発現が強力に誘導されるが、この効果はTLR4欠損によっても抑制されなかった。RA系刺激によるMRP8発現誘導はTLR4-independentに起こる可能性があり、MRP8を治療ターゲットとすることでTLR4の遮断とは異なる治療効果を期待できる可能性が考えられる。また、ヒト腎生検標本を用いた検討では腎組織MRP8発現が既知の危険因子とは独立して腎生検1年後の尿蛋白量を予測できることが分かった。また腎組織MRP8発現は血圧とも正相関を認めており、RA系との関連性を示唆するものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記載した25年度計画は一部内容(糖尿病モデルの変更)の変更を行ったが、おおむね予定通り終了している。具体的にはin vitroの共培養系を用いた検討、および糖尿病モデルマウスへのAII刺激に対するTLR4欠損の影響の検討などである。得られた結果の一部は予想と異なる結果であったが、これまでの検討結果や予備的検討から新しい機序の解析につながる結果と考えている。また26年度計画についてもヒト検体を用いた検討についてはすでに解析が終了、論文報告を行った。
MRP8 conditional欠損マウスを用いて生体におけるMRP8の意義を糖尿病あるいは腎炎モデルを用いて検討する。また、糸球体内細胞間クロストークがMfのMRP8発現を誘導するのメカニズムについてTLR4阻害薬を用いて詳細を検討する。また、ヒト検体を用いた検討については今後の臨床応用を念頭に血液、尿検体を用いた検討を考慮する。具体的には既存のELISAキットによる測定が考慮されるが、MRP8の血中および尿中での存在様式がmonomer, heterodimer, homodimerなど複雑であり、これらの意義を解析する必要があると思われる。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
PLoS One
巻: 18 ページ: e88942
10.1371/journal.pone.0088942.
Clin Exp Nephrol
巻: in press ページ: in press
巻: 9 ページ: e87667
10.1371/journal.pone.0087667. eCollection 2014.
http://www.kidney.kuhp.kyoto-u.ac.jp/