研究課題
若手研究(B)
奈良医大輸血部で実施している本邦の血栓性微小血管障害症(TMA)患者のコホート研究を通して、2013年末までに77例(男性54例、女性23例)の先天性aHUS疑い症例を同定し、46例について羊赤血球を用いた溶血試験と遺伝子解析を実施した。溶血試験では10例の患者に明らかな羊赤血球の溶血亢進(50%以上)を認め、3例にCFH異常を、4例に抗CFH自己抗体を認めた。これより、溶血試験において溶血度50%以上を示す症例はCFH異常の可能性が高いという知見が得られた。残りの3例のうち、1例はC3異常(K1105Q)が同定されたが、2例では遺伝子異常は同定されなかった。遺伝子解析では46例中19例の患者にC3 変異を認め、そのうち16例がI1157Tという同じ変異を有していた。興味深いことに19例は全て関西圏の症例であり、I1157T変異を有していた16例のうち13例は全て三重県の症例であった。C3異常症例では、前述したK1105Qを除く全ての症例において溶血試験で明らかな溶血亢進を認めなかった。そのため、I1157T変異の同定においては、PCRと制限酵素処理により変異の有無を判定することができるRFLP解析が有用であった。上記のような経過から、本邦では海外に比べCFH異常の頻度が低く、C3異常の頻度が高い可能性が示唆された。また、CFH異常とC3異常症例の臨床背景を比較すると、CFH異常症例ではわずか数回の発作で腎不全に至るケースが多いが、C3異常症例では再発回数は多いものの比較的腎機能の予後が良く、腎不全に至ったケースは1例も存在しなかった。今後も本邦におけるaHUS症例のgenotype-phenotype解析を進めることで、aHUS診断・治療の発展に貢献し得るデータが得られると考える。
2: おおむね順調に進展している
本邦aHUS患者を77例同定し、うち半数以上の症例で溶血試験と遺伝子解析を施行することができた。この結果、本邦では海外に比べCFH異常症例が少ない一方でC3異常症例が多いという新たな知見が得られた。これにより、本邦aHUS患者の診断にあたっては溶血試験とC3-I1157T変異の有無を調べるRFLP解析が有用であると考えられた。また2013年に公表されたaHUS診断基準作成の際には、診断の際の検査数値等に我々が集積したaHUS患者のデータが反映されるなど、診断基準の作成に寄与することができた。一方で、明らかな原因が同定されていない症例も3割近く存在していたことから、今後はこれらの症例のさらなる精査が必要であると考えられる。
明らかな遺伝子異常を同定することができなかった症例について、今後は全ゲノム解析等の施行により精査を実施する。最近では血小板活性化に必須のアラキドン酸代謝経路シグナルを遮断するDiacylglycerol Kinaseε(DGKE)の遺伝子異常が、小児で高血圧を呈するaHUS患者の原因として報告されるなど、補体系以外の因子の異常も明らかとなってきている。そこで、当レジストリー内において小児でかつ高血圧を呈する症例についてはDGKEの遺伝子解析を国立循環器病研究センターにおいて実施することも予定している。これまでに得られた結果については、現在、論文化を進めている段階であり、学会発表も予定している。
CFH自己抗体陽性症例について、当初、海外の報告と同様に本邦においてもCFHR関連異常を示す症例が多いと考えていたが、予想に反してCFHR異常を呈する症例が少数であった。このためCFHR抗原量解析に要する抗体を購入する機会が当初の計画より減ったため、未使用額が発生した状況にある。本年度の解析結果より、次年度はC3のRFLP解析を積極的に実施する必要性が示唆された。RFLP解析の際に使用する、PCR関連試薬、制限酵素、電気泳動用のアガロース等は高額なものが多いため、次年度は特にこれらの物品の購入が増えることが予想される。さらに、今後は前述したようなDGKE等の新たな因子についての解析の必要性も出てきたため、これらの解析の構築に当たり必要な資材の購入に使用する予定である。
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