神経軸索スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)は、40~50代で発症し数年の経過で無為・寝たきり状態に陥る認知症性疾患である。単球系細胞に発現するコロニー刺激因子1受容体(CSF1R)の遺伝子変異が報告されており、脳ミクログリアの機能異常が発症に関与すると考えられているが、詳細な発症機構は不明で治療法は確立されていない。 本研究では本症に特異的なCSF1Rシグナル異常を明らかにすることを目的とし、剖検脳の検討を実施し、HDLS脳では対照脳と比較しCSF1Rの発現が低下していることを明らかにした。CSF1Rの主要なシグナル分子の発現についてはHDLS脳および対照脳において一定の変動傾向を認めず、死後脳であることや、ミクログリアに限定した検討でないことが要因と推定された。そのため、ミクログリアと同系統の細胞であるHDLS患者由来の末梢血単球の解析を実施した。その結果、HDLS単球は正常対照と比較して、CSF1RのリガンドであるCSF-1およびIL-34刺激によるマクロファージへの分化や生存が障害されていることが示唆された。患者由来細胞の充分な確保が困難であり、H27年度から当施設の遺伝子診断で同定された、CSF1Rの遺伝子変異を導入した複数種類の培養細胞の作成を行った。H28年度は昨年度採用した3種類の点変異に加えて、新たに4種類の点変異を有するベクター・プラスミドを作成し、アフリカミドリザル腎臓由来COS細胞を用いて遺伝子導入を行った。免疫組織化学法を用いて、CSF1Rタンパクが培養細胞に発現していることを確認した。野生型と各変異型、およびCSF-1投与によるCSF1R刺激の有無の条件下で、主要なシグナル伝達分子の網羅的な分析を抗体アレイキットを用いて継続中である。
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