研究課題/領域番号 |
25860708
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宇田川 剛 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (20644199)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ALS・FTLD / シナプス / RNA結合タンパク質 / 転写後遺伝子発現調節 |
研究概要 |
ALS・FTLDの原因となるRNA結合タンパク質、FUSおよびTDP43の欠失によるシナプス関連タンパク質の発現、及びシナプス機能への影響の解析を行った。 これまでに、FUSがシナプス伝達、及び可塑性に重要な役割を担うAMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluR1の発現を制御することを明らかにした。さらに、FUSはGluR1 mRNAの3'UTRに直接結合し、GluR1 mRNAの発現レベルを転写後において調節することを明らかにした。また、FUSはポリ(A)結合タンパク質PABPC1、及びポリ(A)を短くする酵素(デアデニレース)PAN2を含む因子と複合体を形成することが分かり、mRNAのポリ(A)の長さを調節することでGluR1 mRNAの安定性を制御するという新規な分子メカニズムをもつことが示唆された。さらに、FUS欠失により、培養神経細胞においてシナプス伝達が低下することを、電気生理学的解析(mEPSCの測定)により明らかにし、この異常がGluR1発現レンチウィルスの導入により回復することを明らかにした。これらの結果はこれまでほとんど解析されていなかったFUSのシナプスにおける生理的機能の解明に重要な示唆を与えるものと考えられ、ALS/FTLDの病態解明においても重要な知見と考えられる。 一方、TDP43はこれまでの解析で、やはりシナプス機能に非常に重要な役割を担うPSD-95の発現を制御することが明らかになった。この発現調節は時期特異的であり、海馬初代培養細胞の2週以降という成熟期において観察された。この他にも、TDP43の欠失によりシナプスの活動依存的因子Arcやリン酸化Erkの恒常的な亢進といった現象が観察された。これらはシナプス可塑性に重要な因子であり、今後、TDP43がどのようにこれらの因子を調節するのか、またその生理的影響について解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに、FUSにより制御される重要なシナプス関連因子の同定、及びその生理的機能への影響の解明に成功している。網羅的発現解析についてはまだ今度の検討が必要であるが、同定されたFUSのターゲットの一つであるGluR1の発現を制御することにより、FUS欠失によるシナプス機能異常の改善にも成功している。分子メカニズムについても、FUSがポリ(A)の制御を介してmRNAの安定性を制御するという新規なメカニズムを同定した。当初、予想されたFUSによる翻訳調節とは若干異なるが、FUSによる転写後遺伝子発現調節という観点から新規な知見が得られたと考えられる。 TDP43についても幾つか重要なターゲットの同定に成功しており、今後、FUSの解析で用いた解析手法を用いてさらなる知見が得られることが期待される。 最終的な目標であるFUS、TDP43の欠失によるシナプス機能異常の解明と同定された標的分子、メカニズムを利用した病態のレスキューという観点から当初の計画以上の進展があったと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
FUS,TDP-43ともにさらに詳細な分子メカニズムの解明が期待される。FUSについては新規に同定されたmRNA安定性の制御機構のより詳細な解明と、GluR1以外の他のターゲットの同定も必要と考えられる。前者にはより鋭敏なポリアデニレーションの解析系の確立が必要とされ、後者にはmRNA安定性をマイクロアレイ等を用いて網羅的に解析する実験が必要とされる。TDP-43については、これまでに同定されたターゲットの発現調節機構が不明であり、個々の因子について検討が必要である。FUSの解析で用いた手法等を参考にさらなる解析を進める必要がある。 現在のところ、上述のように、既知のシナプス関連因子の解析からFUS、及びTDP-43により制御される重要な因子が同定されており、これらの解析が優先されるが、当初の計画にあった網羅的なプロテオーム解析についても、FUS、TDP-43の異常による広範な影響を理解するために重要と考えられる。これらの解析を通してより確実な治療標的となりうる分子、パスウェイの同定を目指す。
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