研究課題
前年度に続き、ALS/FTLDの原因となるRNA結合タンパク質、FUSおよびTDP-43の機能喪失モデルを用いて、これらの因子の神経細胞における分子機能解析を行った。FUSについては、GluR1 mRNAの安定性の制御の分子機構とシナプス伝達への影響の概要が前年度に明らかにされていた。本年度はGluR1 mRNAの神経細胞の樹状突起における局在の解析を行い、FUSがGluR1 mRNAの局在の制御には直接関与せず、細胞質における安定性の制御に関わることを確認した。また、核および細胞質におけるFUSを含むタンパク質複合体の解析を行い、PAN2 deadenylase、およびポリA結合タンパク質PABPC1と、主に細胞質において複合体を形成することを確認した。その他、FUSノックダウンにおけるその他のシナプス関連因子の発現やmRNA安定性等のコントロール実験を追加した。また、海馬特異的FUSノッックダウンマウスの海馬においてGluR1を発現させることで脱抑制、社会性行動の異常等の行動異常がレスキューされることが示され、最終的にこれらの結果を合わせて論文投稿に至った。TDP-43については、前年度においてTDP-43ノックダウンによりシナプスタンパク質PSD-95の発現が上昇する知見を得ており、その制御機構の解析を行った。免疫沈降により、TDP-43はPSD-95 mRNAに直接結合することが示され、さらに半減期測定の実験からTDP-43がPSD-95 mRNAの安定性を制御する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
FUSの解析については、標的mRNAの同定とその制御機構の解明、および生理的機能の解明に成功し論文投稿に至っており、当初の計画以上の進展が見られたと判断される。しかしながら、FUSに制御されるその他の新規な因子の同定には至っておらず、より網羅的な解析の実施も期待される。TDP-43についてもシナプス機能に関わる可能性を示唆する結果が得られており、また、分子機構の一端も示されつつあるが、生理的機能と分子機構の関連はまだ隔たりがあり、両者の関係を明らかにするような解析が必要とされる。本研究の目標であるFUS, TDP-43欠失によるシナプス機能異常の解明と分子機構の解明、病態のレスキューという観点から、おおむね順調に進展していると判断される。
FUSについては、昨年度の課題としていたポリA鎖の制御やmRNA安定性の制御を指標とした網羅的解析についてまだ検討が進んでいない。これらの系の確立を目指す。TDP-43については、ノックダウンによる高次機能障害の分子機構の解明が重要課題である。TDP-43により制御される複数のシナプス関連因子が同定されたが、これらがTDP-43による高次機能障害にどのように関わるのか、また、これらの因子を用いた機能障害のレスキューが可能かを検討する必要がある。TDP-43によるPSD-95の発現制御についてはより詳細な分子機構を解明するとともに、レスキュー実験等による生理的意義の解明が必要となる。また、TDP-43欠失により影響を受けるシグナル系の同定も病態のレスキューのために重要と考えられる。
すべて 2014
すべて 学会発表 (2件)