2014年までに1例のSBMA患者からのiPS細胞を樹立しており、運動ニューロンへの分化に成功させた。さらに誘導したニューロンについてARの生化学的解析を行ったところ、コントロールと比較してdihydroteststerone(DHT)への反応性が有意に高いことおよび17-AAGにより凝集ARが分解されることも確認していた。しかし、ポリグルタミン病の重要な病理所見である核内凝集体は、DHT処理後も免疫組織学は確認できなかった。 次に、神経変性疾患由来iPS細胞の疾患モデルとしての妥当性を確認するため、SBMA-iPSCについての研究に並行してその他の変性疾患であるパーキンソン病やALS由来iPS細胞の樹立とニューロンへの分化誘導を行い、それぞれの疾患に特異的な生化学的異常について検証を行った。まず孤発性ALSよりiPS細胞を樹立し、SDIA法を用いて運動ニューロンへ分化誘導を行った。樹立したニューロンでは、ALSの重要な病理、生化学的所見であるTDP-43蛋白の細胞内局在および発現量に異常が見られないことを免疫染色とウェスタンブロット法を用いて確認した。これらの結果は、SBMA-iPSC由来神経細胞においてもALS-iPSCにおいても、神経変性、神経細胞死に至るまでには長期間を要する可能性があると考えられ、今後の検討課題であると考えられた。 また、孤発性PD患者および家族性PD患者(PARK4)よりiPS細胞を樹立し、ドパミンニューロンおよびアストロサイトへ分化誘導を行った。この培養系に酸化ストレスであるH2O2を添加するとアストロサイト数が有意に減少していることが観察された。この結果は、近年注目されている神経変性疾患におけるneurovascular unitの機能減弱を示唆する所見と考えられた。今後これらの知見を元に他のポリグルタミン病のiPS研究を展開していく。
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