本研究では、ミトコンドリアDNA変異に起因するミトコンドリア病の中でも最も頻度の高いMELAS(m.3243A>G変異)に着目し、細胞初期化/分化におけるミトコンドリア機能異常の影響を検証することを主目的としている。 昨年度までに、健常者由来iPS細胞を用いて神経系細胞、心血管系細胞への分化誘導法の確立に成功した。今年度は、これらの分化誘導法に従い、m.3243A>G変異を有する患者由来iPS細胞を用いた神経、心筋細胞への分化誘導を行った。用いたiPS細胞はこれまでの研究により樹立された、同一患者由来でミトコンドリア機能が正常な低変異率iPS細胞とミトコンドリア機能が低下した高変異率iPS細胞を用いた。 分化誘導の結果、低変異率iPS細胞からは健常者iPS細胞と同様に神経細胞、心筋細胞が正常に誘導されたことが確かめられた。それに対して、高変異率iPS細胞からは神経幹細胞から神経細胞への分化過程において細胞死が顕著に引き起こされることが明らかになった。また、高変異率iPS細胞からは心筋細胞への分化抵抗性も認められた。この傾向は、別の患者由来高変異率iPS細胞を用いた神経細胞、心筋細胞への分化誘導においても同様に認められた。これらの結果から、m.3243A>G変異によるミトコンドリア機能異常は神経細胞や心筋細胞への生存や分化を妨げることが見出された。本研究結果は、ミトコンドリアの生理機能が特定の細胞系譜への分化に重要であることを示唆している。
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