研究実績の概要 |
メタボリックシンドロームは世界で急激に増加傾向であり、日本でも社会問題となっているが、これらは細胞、個体レベルにおけるエネルギー状態の破綻によって起こるとされている。細胞内エネルギー代謝調節に重要な蛋白質であるAMPキナーゼ(AMPK)はα,β,γ のサブユニットからなり、その活性調節はAMP/ATP比によってなされるとされているが、これによるAMPKのアロステリックな変化による活性上昇は数倍程度にとどまり、αサブユニットの172番目のスレオニンのリン酸化が重要とされている。このリン酸化を行うキナーゼとしてはLKB1、CAMKKβ, TAK1が知られているが、近年、我々はLKB1が非受容体型チロシンキナーゼの一つであるFynによって直接リン酸化されており、このリン酸化によって、その活性が抑制されることを報告した。さらに近年、FynがこのLKB1を介さずとも、AMPKαサブユニットの432番目のチロシン残基を直接リン酸化することで、その分子内活性の調節が可能であることを確認した。また更に検討を行い、①HEK293細胞にて長期TNFαでAICAR依存性のAMPKのαの172番目のスレオニンのリン酸化とその基質であるアセチルCoAカルボキシラーゼのリン酸化の減弱を認めた。②長期TNFαでFynの活性の上昇を認めた。③HEK293細胞でsiRNAを用いてFynをノックダウンし、長期TNFα下でのAICAR依存性のAMPKのリン酸化の減弱が起こらないことを確認した。これらの結果はメタボリック症候群に深く関与する炎症性サイトカインTNFαがFynの活性を上げる事、さらにそれによりAMPK活性調節が生じる可能性を示唆している。これら一連の発見によってメタボリック症候群においてAMPKを抑制する新たなメカニズムが判明したこととなり、肥満治療に大きく貢献することができると考えられる。
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