研究概要 |
多機能性生理活性脂質であるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)、およびそのHDL上の輸送体、かつ代謝調節因子であるアポ蛋白M(ApoM)の糖尿病、特にインスリン抵抗性との関連について検討し、以下の結果を得ている。 1)ApoMの過剰発現により、通常食マウス、高脂肪食負荷マウス、db/dbマウス、いずれのマウスにおいても、血漿および肝臓中のS1Pが増加した。高脂肪食負荷マウス、db/dbマウスでは、インスリン抵抗性がApoMの過剰発現により改善していた。これらの作用はS1P1, 3受容体阻害薬によって部分的に阻害された。また、臓器別には、特に、肝臓、骨格筋のインスリン抵抗性が改善していた。さらに、ApoM群では、肝臓の糖新生が抑制されていた。一方、通常食マウスでは、インスリン感受性には相違が認められなかったが、ApoM群にて、インスリン分泌が増強され、この効果はS1P1, 3受容体阻害薬によって阻害されることがわかった。 2)マウスモデルを用いて糖代謝関連因子のApoM, S1Pに対する影響を検討したところ、高脂肪食負荷、ストレプトゾトシン投与にてApoM, S1Pが増加していた。培養細胞を用いた検討では、脂肪酸投与にてApoMが増加し、一方、インスリン投与、培養液中からのグルコース除去によってApoMが低下することがわかった。 以上の結果よりApoMがS1Pを増やすことにより、インスリン抵抗性を改善させ、またインスリン分泌を増強させる可能性が示唆された。また、糖代謝関連因子のApoMに対する影響を考えると、インスリン絶対的不足、および内臓脂肪蓄積によるインスリン相対的不足の病態において、肝臓はApoM産生を増やすことにより、末梢臓器におけるインスリン感受性を亢進、および、膵β細胞のインスリン分泌能を増強させることにより、糖代謝の恒常性維持に寄与していることが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、当初の予定通り、in vitroにおけるApoM, S1P, S1P受容体のインスリン抵抗性改善作用への関わりについての検討を行う予定である。 また、前述のとおりApoMに対するshRNAアデノウイルスの作成が難航しているため、in vivo siRNA導入システムを用いて、ApoMの発現低下による、糖代謝への影響の検討を行う予定である。 また、当初の予定にはなかったが、ApoM過剰発現によるS1P増加により、通常食マウスにてインスリン分泌能を亢進させることがわかったため、STZ誘発糖尿病マウス、NODマウスといった1型糖尿病モデルマウスにおいて、ApoM、S1Pの糖代謝に対する影響の検討も行う予定である。
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