研究実績の概要 |
Tcf7l2は2型糖尿病感受性遺伝子の1つとして同定されたが,2型糖尿病の発症におけるTcf7l2の役割については未だ議論がある.本研究では,Tcf7l2が膵β細胞で担う役割をin vivoで明らかにすることを目的として,Tcf7l2の機能を膵β細胞で低下させたモデル動物を作成し,その表現型を解析した. Tcf7l2のdominant negative型変異体をRat Insulin Promoterで膵β細胞に発現させたトランスジェニックマウス(以下DNマウスと略記)は野生型(Wt)マウスと比較して体重・インスリン感受性は同程度であったが,経口糖負荷試験・腹腔内糖負荷試験を行うと,インスリン分泌低下を伴う耐糖能異常を呈した.単離膵島実験において,DNマウスはWtマウスと比較してグルコース応答性インスリン分泌量は少なかったが,インスリン含量で補正したインスリン分泌率は同等であった.さらに,DNマウスは出生直後から成体に至るまで,膵組織像での膵β細胞面積の減少と膵臓全体のインスリン含量の減少を呈した.単離膵島を用いた遺伝子発現解析では, DNマウスはサイクリンD1・D2,インスリン1・2の発現の低下を認めたが,アポトーシスやインスリン分泌顆粒の開口放出機構に関与する分子の発現については,Wtマウスと有意な差を認めなかった.また,DNマウスではインスリンの転写や膵β細胞の成熟に重要なNeuroD1やMafAの発現低下を認めた. さらに,MafAのプロモーターの下流にmCherryをコードする遺伝子をノックインした蛍光レポーターマウスの作製に成功し,DNマウスとの交配によりMafAの発現を胎生期から評価可能な系を樹立した.まとめると,in vivoで膵β細胞におけるTcf7l2は膵β細胞量と膵臓インスリン量の制御を通じて,個体としてのインスリン分泌能に重要な役割を果たしていることが示唆された.
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