研究課題
若手研究(B)
糖尿病は世界規模の医学的・経済的問題であり、膵β細胞の供給源と補充療法の開発は急務である。発生過程で出現する膵芽・膵上皮細胞は、膵臓にのみ分化する細胞で、ヒトES/iPS細胞から膵β細胞を作製する際に要所となる。本研究の目的は、膵芽・膵上皮細胞に特異的なマーカー遺伝子NKX6.1を指標として、膵芽・膵上皮細胞への効率的な分化誘導法を開発することである。(1)PDX1陽性細胞を生存させたまま単離する方法の確立発生学の知見から、PDX1陽性細胞が分化してNKX6.1を発現する細胞になることが分かっている。その過程を厳密に解析するため、PDX1の遺伝子発現と相関して蛍光タンパク質を発現するレポーターヒトiPS細胞株の樹立を試みた。PDX1の発現と相関して赤色蛍光を発し、フローサイトメーターにて単離することが可能な細胞株を複数得たが、全ての細胞株で核型異常が見られた。このため再び細胞株の樹立を試み、新しい候補株を得た。現在、この新しい候補株の核型が正常であるか、また、遺伝子の導入状態を確認している。さらに、これらの細胞株を用いて、生存させたまま単離したPDX1陽性細胞の分化能をin vitroおよびin vivoで評価中である。(2)高効率なNKX6.1陽性細胞への分化誘導法の確立既報にある分化誘導法では、ES/iPS細胞からほとんどNKX6.1陽性細胞へと分化誘導することができなかった(1%以下)。その原因として、分化誘導因子が完全には明らかにされておらず、未知の因子が必要であるためと考えられた。そこで、既報をもとにより効果的な増殖因子や化合物の組み合わせ、培養法などを検討し、約40%までの誘導効率を達成した(論文投稿準備中)。現在、既報との相違点を解析し、分化誘導に必要な新たな因子の同定・機序解明を試みている。
2: おおむね順調に進展している
一つ目の目標である、PDX1陽性細胞を生存させたまま単離する方法の確立に関して、PDX1の発現と相関してレポーター遺伝子を発現し、生存させたまま単離することのできる細胞株の候補を得ている。現在、最終確認として核型と導入遺伝子の位置の確認を行っており、目標はほぼ達成できている。二つ目の目標である、高効率なNKX6.1陽性細胞の分化誘導法の確立に関して、当初の誘導効率である約1%以下から、約40%へと飛躍的な作製効率の改善ができた。これによって次の目標であるNKX6.1陽性細胞への分化過程の解析や分化能をin vitroおよびin vivoで検討することが可能になった。以上のことから、H25年度の達成度は、おおむね順調に進展していると考える。
(1)高効率なNKX6.1陽性細胞への分化誘導法の確立既報との相違点を解析し、分化誘導に必要な新たな因子の同定を試みる。また、遺伝子発現解析に加え、ヒトiPS細胞を用いたスクリーニング系にて、低分子化合物ライブラリからPDX1陽性細胞をNKX6.1陽性細胞へ高効率に分化誘導する化合物を網羅的に探索し、その化合物の情報から機序を推定する。(2)作製したヒトiPS細胞由来NKX6.1陽性細胞の分化能の検討A) 作製したNKX6.1陽性細胞のin vitro成熟化と機能試験 当研究室では、iPS細胞から約20%の効率で膵β細胞を作製することに成功している(特許出願中)。この申請者らが独自に開発した低分子化合物および増殖因子を用いた分化誘導法にて、作製したNKX6.1陽性細胞をin vitroで膵β細胞へと分化させる。In vitroの分化で得られた膵β細胞が、自然発生で得られる膵β細胞と同様の機能を有するかを明らかにするため、遺伝子発現を解析する。また、インスリン分泌調節刺激に対する応答能を検討する。B) 作製したNKX6.1陽性細胞のin vivoでの分化能の検討と機能試験 作製したNKX6.1陽性細胞のin vivoでの分化能を示すため、NKX6.1陽性細胞を成体マウスへ移植する。移植対象には免疫拒絶反応のない免疫不全マウス(NOD-SCIDマウス)を用いる。移植後の分化能を形態・発現タンパク質の組織化学的な解析にて追跡する。また、空腹時および糖負荷時の血中ヒトc-peptide値などの計測から機能を解析する。
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Scientific Reports
巻: 4 ページ: 3594
10.1038/srep03594