研究課題
若手研究(B)
小胞体ストレスにより膵β細胞のアポトーシスが生じ膵β細胞量が低下することが2型糖尿病の発症および進展の原因の一つとして注目されている。小胞体ストレスを制御することにより膵β細胞のアポトーシスを抑制し、膵β細胞量の低下を防ぐという観点から、膵β細胞における糖代謝の制御による新たな糖尿病の治療法の開発を試みた。小胞体ストレス存在下の単離膵島において、グルコキナーゼ活性化薬(GKA)はCHOP、Baxの発現を低下させ、小胞体ストレスを制御しアポトーシスを抑制することを見出した。さらに、小胞体ストレス誘導性膵β細胞障害モデルであるAkitaマウスにGKA投与したところ、糖尿病発症は抑制され、膵β細胞量も増加し、さらに膵β細胞のアポトーシスも有意に改善した。また、膵β細胞においてグルコキナーゼを欠損したAkitaマウス、およびIRS-2を欠損したAkitaマウスを作成し解析したところ、Akitaマウスと比較して膵β細胞のアポトーシスが亢進していた。グルコキナーゼの標的分子を同定するために、遺伝子発現マイクロアレイにて、GKAにより膵β細胞において有意に発現変化する遺伝子群を同定した。これらの中で、インスリンシグナル、細胞増殖、インスリン分泌制御に関わる分子群とともに、小胞体ストレスに関連する分子群がグルコキナーゼにより制御されているおり、これらはIRS-2に非依存的であることも明らかにした。これらの解析を通じてグルコキナーゼの活性化は、インスリンシグナルの増強を介したGSK-3βの活性抑制と、MAPキナーゼのERKを介した小胞体ストレス関連分子群の発現制御との複数の異なる経路を介して膵β細胞アポトーシスを抑制し膵β細胞量を保護することを見いだした。以上のことより、膵β細胞におけるグルコキナーゼを介した糖代謝の活性化が治療法となる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の主な内容は、Diabetes.;62(10):3448-58, 2013.に論文発表し、さらに発展的な解析を進めている。
膵β細胞においてGKAにより発現変化する分子群のうち、主に中枢神経系のみで報告され、膵β細胞における機能は不明である分子群がGKAにより膵島において有意に発現変化することをrealtime-PCRにて確認している。さらに、これらの機能未知分子群において、小胞体ストレスが亢進しているdb/dbマウスやIRS-2欠損マウスの単離膵島では、GKAによる発現変化が野生型膵島と異なるパターンを示す分子群も同定した。糖代謝あるいはIRS-2との相互作用を介した膵β細胞の小胞体ストレス制御とこれらの機能未知の分子群との関係についても、膵島への遺伝子導入等により解析する。これらのグルコキナーゼの新規標的分子のcDNAクローニングを実施し、アデノウイルスベクターに組み入れ、マウス単離膵島に強制発現し、膵β細胞における抗アポトーシス作用、インスリン分泌能、膵β細胞増殖能を解析する。また、新規標的分子のRIPプロモーターを用いた膵β細胞特異的遺伝子過剰発現および欠損マウスを作成する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件)
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巻: in press ページ: 印刷中
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