研究課題/領域番号 |
25860771
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
村嶋 亜紀 和歌山県立医科大学, 先端医学研究所, 学内助教 (50637105)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アンドロゲン受容体 / 細胞増殖因子 / Shh / Fgf / Wnt/b-catenin / ノックアウトマウス / ウォルフ管 |
研究概要 |
平成25年度は、様々な細胞増殖因子関連遺伝子のウォルフ管上皮特異的ノックアウト(KO)マウスを作成し、表現型に関して解析を行った。その結果、ウォルフ管上皮に発現するSnonic hedgehog(Shh)は、中腎の形態形成に必須ではなく、脊索や神経管などの正中構造に発現するShhが中腎形成の中心を担っていることを明らかにした(Murashima et al., 2013, Developmental Biology)。また、上皮特異的Fibroblast growth factor受容体遺伝子(Fgfr1, Fgfr2)KOマウスの解析より、ウォルフ管上皮におけるFgfシグナルは管上皮の維持に必須であることを示しつつある(Okazawa and Murashima et. al, 投稿準備中)。また、ウォルフ管上皮特異的b-catenin KOマウスと器官培養系における阻害剤の投与実験から、Wnt/b-cateninシグナルが、ウォルフ管のアンドロゲン依存的な雄性形態形成に必須であることが示唆されつつある。更なる器官培養実験より、非古典的Wntシグナルのウォルフ管雄性形態形成誘導作用も示唆されており、詳細を解析中である。また、ウォルフ管雄性化の時期において、Wntアンタゴニストの発現が上昇することを確認しており、アンドロゲンによる、アンタゴニストの発現制御を介した、ふたつのWntシグナルの制御機構の可能性が示唆されつつある。本研究で得られつつあるこれらの知見はウォルフ管のアンドロゲン依存/非依存的形態形成メカニズムを考察するうえで非常に重要な知見を与える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はShh, b-catenin, Fgfr1/2に関してウォルフ管上皮特異的ノックアウト(KO)マウスを作成し、その表現型を解析し、報告している(Murashima et al., 2013, Developmental Biology, Okazawa and Murashima et. al., 投稿準備中)。しかしこれらの遺伝子改変マウスはウォルフ管の性分化が起こる以前に既に形態形成異常を示しており、アンドロゲンとこれらの細胞増殖因子との関連性を十分に解析できていない。また、その他の遺伝子改変マウスにおいても一時的な解析は終了しており、ウォルフ管由来雄性生殖輸管に表現型を示さないことを確認している。 一方でウォルフ管上皮特異的b-catenin KOマウスとウォルフ管の培養組織を用いた阻害剤の投与実験において、アンドロゲンによるウォルフ管の形態形成においてWntの古典的、非古典的シグナルがそれぞれ関わっている可能性を示唆しつつある。これは、アンドロゲンによるウォルフ管雄性形態形成制御におけるWntシグナルの機能を初めて示唆するものであり、ある程度目標を達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の解析より、アンドロゲン下流の標的細胞増殖因子シグナル経路として、Wnt/b-カテニンシグナルと非古典的Wntシグナルが挙げられた。特にこれらのシグナル経路を阻害すると、アンドロゲンによるウォルフ管の雄性形態形成誘導が阻害された。また、Wntシグナルの阻害によってウォルフ管間葉における細胞分化に異常が見られることが明らかになりつつある。このことより、間葉細胞の分化制御が雄性形質の獲得に必須の細胞機構である可能性が示唆されつつある。今後、Wntシグナルのウォルフ管間葉細胞分化に対する機能解析と雄性形態誘導における機能を明らかにする。具体的には器官培養を用いて、Wnt添加時の細胞分化を観察するとともに、間葉細胞分化を薬剤にて阻害し、アンドロゲン存在下での雄性形態誘導を観察する。 一方で、アンドロゲンによるWntシグナル制御機構を解析するために、特にWntアンタゴニストの発現制御に関して解析を行う予定である。既に定量的mRNAの発現解析より、一部のWntアンタゴニストがAR WT雄に比べて、AR KO雄のWDにおいて発現が亢進していることを確認している。これらのアンタゴニストに対するアンドロゲンの発現誘導機構を解析する。 また、同時に進行しているnon-cording RNAに関しては、AR と相互作用が報告されている遺伝子の構造配列内より転写されることがわかっており、AR の機能調節に対する役割をRNA 干渉等を用いて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
Fgfに関する解析が遅れており、それらを投稿する為の英文校正料金、投稿料、印刷代として予定していた予算を使用することが出来なかった。 平成25年度に引き続き、遺伝子改変マウス系統を維持し、それらを交配させ多くの複合系統を作製・維持する為のマウス飼育費、マウス購入費として当てる。また、組織学的、分子学的、細胞生物学的、生化学的解析に必要な試薬、抗体、酵素を購入する。前年度に明らかとなったWntシグナルの作用機構を解析するための各シグナル伝達タンパク質の阻害剤の購入も追加で計画している。 平成25年度より投稿準備が整いつつあるウォルフ管維持におけるFgfシグナルの機能に関する論文や、上述の研究成果の投稿料・印刷代にも使用するつもりである。また、当研究は内分泌をはじめ、発生生物学、生化学または生殖分野を広くつなぐ分野となりつつあるので、これらの分野の研究者との情報交換、議論が必須であり、その学会参加費、旅費としての使用も予定している。
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