甲状腺機能は脳下垂体から分泌されるTSHによって調節されているが、個々の濾胞機能には大きな差異が認められる。これまでに我々の研究室では、甲状腺濾胞内に蓄積するthyroglobulin(Tg)がnegative feedbackによって、種々の甲状腺機能調節遺伝子を調節して、濾胞機能を調節していることを明らかにしてきた。本研究は、これまで関与が不明であった甲状腺ホルモン合成における濾胞内コロイドの再吸収、加水分解、および濾胞上皮細胞からの網細血管周囲腔への放出の過程における濾胞内Tgの役割を明らかにすることを目的として行った。まず、ラット甲状腺FRTL-5を用いて、Tgによって変動する遺伝子やタンパクをDNAマイクロアレイや質量分析を用いて網羅的解析を行ったところ、濾胞内コロイドの再吸収からホルモン放出に関わる甲状腺機能遺伝子のうち、DEHAL1、MCT8、CRYM、LAT1、CD98などに変化が見られた。さらにこれらの遺伝子について、種々の濃度のTgを細胞培養液に添加して、realtime PCRとWestern blottingによって詳細な検討を行った。DEHAL1は、Tgの加水分解によって発生したヨードの再利用に重要な因子であるが、Tgによって濃度依存性に遺伝子発現とタンパク発現が減少することを確認した。一方、甲状腺ホルモンをろ胞上皮から網細血管周囲腔へ放出するトランスポーターの一つであるMCT8と細胞内の甲状腺ホルモン輸送タンパクであるCRYMについては、Tg濃度依存性に遺伝子発現とタンパクの発現が増加した。さらにこれらの変化は72時間まで継続的に見られた。これらの結果から、甲状腺ホルモン合成において、濾胞内Tgがヨードの取り込みからヨードの有機化だけではなく、コロイドの再吸収や加水分解、ホルモン放出に関わる甲状腺機能遺伝子を調節し、甲状腺機能を調節している可能性が強く示唆された。
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