研究課題/領域番号 |
25860775
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
白鳥 聡一 北海道大学, 大学病院, 特任助教 (00645905)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | GVHD / TLRシグナル / MyD88 / TLRノックアウトT細胞 |
研究概要 |
マウスモデルを用いたGVHDおよびGVL効果におけるTLRシグナルの役割の検討を行った。申請書で述べた通り, TRIF/MyD88-/- T細胞を移植すると, GVHDが軽症化するという結果に基づき, さらにメカニズムの追求を行った。まず, MyD88とTRIFそれぞれの単独欠損T細胞を移植に用い, GVHDの重症度を観察した。その結果, TRIF-/-のT細胞を移植してもGVHDの軽症化は生じなかったが, MyD88-/-のT細胞の移植では, GVHDの軽症化が確認された。これにより, T細胞の活性化には, MyD88を介したTLRのシグナル, もしくはMyD88を介したサイトカインのシグナルが必要である事が分かった。次に, 移植前後の野生型 T 細胞におけるTLRやサイトカインレセプターの発現を qRT-PCR 法で確認したところ, TLR2, TLR7, IL1R, IL18RなどのMyD88依存性のレセプターが発現していた。またTLR9もわずかながら発現が確認された。TLR2やIL1Rは移植後に発現が上昇していた。これらのT細胞が発現する, TLRやサイトカインレセプターのリガンドをin vitroで加えてT細胞を刺激したところ, TLR2やTLR7のリガンドを加えた場合にT細胞の増殖が有意に促進された。そこでTLR2-/-とTLR7-/-のT細胞を移植に用いてGVHDの軽症化が見られるかどうかを検討した。するとTLR7の単独欠損T細胞の移植では, 移植後のGVHDの重症度がわずかに軽減したが明らかな生存率の改善は見られなかった。今後更なる検討が必要と考えている。その他には, 造血幹細胞移植後における自然免疫系に関与する各種分子の網羅的解析に向けて、本年度は移植前後での特定の時間経過で検体の採取・保存を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスモデルを使用した, GVHDの発症に関わるT細胞内のTLRおよびサイトカインシグナルの検討は順調に進んでいる。予定通り, T細胞上に存在する, TLRやサイトカインレセプターを同定することができた。さらにその内のいくつかは, 移植後の検体で上昇が見られた。現在は, これらのレセプターを特異的に欠損させて移植を行っているところであるが, 責任分子は未だ明らかにはなっていない。ただし, TLR7でGVHDのわずかな軽症化がみられるなど, それをつきとめるための, 糸口となるような結果は得られているので, 今後は移植の種類を変えたり, 複数のレセプターを同時にKnock outしたりして研究を進めて行く予定である。In vitroの刺激実験において, IL-1Rなどの刺激に比べて, TLR2やTLR7の刺激の方が強くT細胞の活性化・増殖を促進するというのはこれまでに発見されていない新しいデータであり、今後の研究の発展が期待される。また造血幹細胞移植後の環境で, 自然免疫系に関与する各種分子の網羅的解析をするための, 検体の採取・保存も順調に進んでいる。H25年5月~H26年3月にかけて, 移植前の検体を 24例, 移植後Day28の検体を28検体, 移植後Day56の検体を24症例, 移植後Day100の検体を22症例, 再発症例 を5検体, GVHDの検体を 12検体以上を採取し保存した。目標検体数を大きく上回る数の検体を集める事ができている。
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今後の研究の推進方策 |
マウスモデルを用いた研究は, まずT細胞が発現するTLRを複数knockoutしたマウスを使用して移植を試みる。具体的にはTLR-2, TLR-7, TLR9のTriple knockout マウスを使用する。このTriple knockoutマウスから純化したT細胞を, 移植してGVHDの軽症化が見られるかどうかを検討する。もし, 軽症化が見られない場合は, MyD88-/- T細胞によるGVHDの軽症化は, TLRではなくむしろIL-1βなどのサイトカインシグナルの阻害によるものと考えられる。何れにしても, 責任レセプターおよびそのリガンドを同定し, それらが治療の標的となるか否かを確認する。さらに, 網羅的な検討を行うため, MyD88-/- およびWTのT細胞をSyngeneicおよびAllogeneicのレシピエントに移植して, 7日目にレシピエントの脾臓からT細胞を純化する。これらのT細胞からmRNAを抽出し, Microarrayで解析をする。Syngeneicの移植と比較して, Allogeneicの移植を行ったWT T細胞で上昇している分子を抽出する。その中で, MyD88-/-のT細胞では上昇しなかったものを検索する。これらの分子の中から, 新たなGVHD予防の標的となりそうな分子を選択しshRNAを作製し, 当科で所有するsiPORTトランスフェクション装置を使用してドナーT細胞に導入する。これらのT細胞を移植に利用しGVHDの抑制が見られるか否かを検討する。臨床での移植で, これらのパターン認識受容体が果たす役割を調べるため, H25年度に採取した臨床検体からT細胞を磁気的に分離し, mRNAを抽出し, 主要なパターン認識受容体の発現量を qRT-PCR にて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定に従って、本年度内に使用する計画を立てていたが、具体的な計画の立案、実行に時間を要したため、(費用の)使用時期がやや遅れることとなった。2014年3月以降は、実験計画の進行に従って、それに関わる物資も購入等を順調に進めているところである。 マウスモデルを用いた研究として、T細胞が発現するTLRを複数knockoutしたマウスを使用して移植を試みる計画であり、その実験に用いる費用(各種ノックアウトマウスの購入等)に用いる。またこの実験でGVHD予防の標的候補分子が同定した後、その分子に対するshRNAを作成するため、その作成費、およびトランスフェクション実験に関わる費用に用いる予定である。また臨床検体を用いたqRT-PCR実験に関わる費用(プライマーの作成、PCR装置のランニングコスト等)にも用いる計画である。
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