研究課題/領域番号 |
25860787
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
遠藤 弘史 滋賀県立大学, 人間文化学部, 助教 (30567912)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌細胞死誘導 |
研究概要 |
TGF-βとそのファミリーのBMP-9は生体内で様々現象に関わっており,その機能を明らかにすることは発生から疾病にいたる多くの生命現象の解決に寄与すると考えられる.TGF-βとTGF-βスーパーファミリーであるBMP9およびBMP10は胎生致死であったり,表現型が出にくい事が報告されている.現在までに,リンパ管と血管の分岐部でCLEC-2 とポドプラニンの結合で活性血小板から放出された顆粒内容が、リンパ管内皮の遊走、増殖、管腔形成を抑制すること。また,これにより分岐部のリンパ管内皮が排除され、血管とリンパ管の分離が促進されることにTGF-βとそのファミリーのBMP-9が関与している可能性が示唆されている.この事を証明するため,血小板凝集塊が存在する血管リンパ管分離部位のリンパ管内皮細胞でTGF-βシグナル下流のsmad2/3のリン酸化を免疫蛍光染色で検討した.しかし,血小板凝集と血管リンパ管分離部位においてはsmad2/3のリン酸化抗体が反応しなかった.現在,これらの問題点に関しては手法の改善を試みている. 一方,TGF-βファミリーは細胞内でMAPKを中心としたシグナル伝達経路の主要分子であり,細胞の生死を司っていることも知られている.特に癌細胞においてはその悪性化や転移,浸潤に重要な役割を担っている.当研究でTGF-βの癌細胞における役割を解析する際に,正常細胞に比べて,様々なストレスから細胞を保護する働きを持つHsp70の発現が増強し,細胞死を誘導する治療に対して抵抗性を示す一因となっている可能性を見出した.この時,非ステロイド系抗炎症薬であるイブプロフェンはHsp70の発現量を転写レベルで減少させることで,臨床で広く用いられているシスプラチンへの感受性を増強していることを明らかとし,論文で報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TGF-βとTGF-βスーパーファミリーであるBMP9およびBMP10のin vivoにおける解析は,遺伝子改変マウスの作出とその表現型の解析があまり進んでいない.しかし,一方で,細胞を使った解析では,TGF-βファミリーの下流にあるシグナル伝達物質のMEK-ERKsはp38によって阻害されるとその生存シグナルが減弱することが知られている.また,p38は細胞死誘導因子であるBaxをミトコンドリアへ移行させることで,細胞にアポトーシスを誘導することも知られている.平成25年度の研究において,正常肺細胞と比較して肺癌細胞で,ストレス蛋白質Hsp70が恒常的に発現増強していることを確認した.このことは腫瘍の転移や浸潤を促進して,癌細胞の悪性化を助長している可能性が示唆される.さらに,このHsp70の恒常的な発現増強は,癌化学療法や温熱療法といった癌細胞に細胞死を誘導する治療に対して抵抗性を獲得する一因となっている.肺癌の化学療法で第一選択的に用いられる抗癌剤のシスプラチンを肺癌細胞に添加すると,Baxを介して細胞死が誘導されること,また,シスプラチンによる細胞死誘導時のBaxの活性化はストレス蛋白質Hsp70が抑制していることを見出した.さらに,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の一つであるイブプロフェンはHsp70の発現を転写レベルで抑制しており,この事はシスプラチンによるBaxのミトコンドリア移行とミトコンドリア下流のCaspase-9の活性化をより増強することを明らかとした.これらの事はCell Death and Disease (2014) 5, e1027, Endo et al.に報告した.以上の事より本研究はin vitroにおいておおむね順調に進んでいると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ,血小板特異的ALK-1/5細胞外ドメイン発現マウスについては作出およびその表現型の解析等で少し停滞している.そのため,in vivoモデルでのTGF-βとTGF-βスーパーファミリーであるBMP9およびBMP10の生体内での役割についての解析はあまり進んではいない.一方,in vitroの実験でTGF-βと癌細胞の関わりについては,血管新生や上皮間葉転換(EMT)の誘導など様々な報告がなされている。そこで,昨年度に論文で報告した癌細胞死との関係に着目することで研究を推進して行く事を考えている.研究代表者は癌の転移や遊走モデルの解析においても細胞の増殖やシグナル伝達経路の解析等の手技を用いた論文を発表しており、この研究の遂行に必要な手技と経験を有している。 癌細胞では足場依存性の細胞死誘導(アノイキス)が消失しており,この事は癌細胞が血管性やリンパ管性に転移する原因となっている.このように癌細胞では正常細胞と比較すると細胞死誘導に対して抵抗性を獲得することが,その悪性化の要因であることは間違いない.これらの現象はTGF-βやそのファミリー蛋白質が関わるシグナル伝達経路によって引き起こされる詳細な機序が近年報告されている. 今後の研究の推進方策として,血小板特異的ALK-1/5細胞外ドメイン発現マウスの作出およびその表現型の解析を進めるとともに,培養細胞を用いたTGF-βファミリーとその下流シグナルより派生する癌細胞の細胞死誘導抵抗性がどのように獲得されるか,また,薬剤や食成分といった抗腫瘍活性を有する物質がこの経路にいかに影響を及ぼしているのかの解析を進めていく.
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