研究課題
若手研究(B)
慢性骨髄性白血病(CML) の完治はBcr-Abl融合チロシンキナーゼ(Bcr-Abl TK)阻害剤(TKIs)のみでは困難であり、その一因として骨髄腫瘍環境由来治療抵抗性がある。我々はGalectin-3 (Gal-3) がCML における骨髄腫瘍環境由来治療抵抗性に重要であり、白血病細胞の増殖、治療抵抗性、細胞遊走、白血病細胞・骨髄間質細胞(BMSC)のオートクライン・パラクライン増殖に関与することを突き止めた。本研究ではGal-3誘導性オートクライン・パラクライン増殖メカニズムの解明とその克服を目指した。1. CML細胞のGal-3誘導性オートクライン・パラクライン増殖メカニズムを誘導する液性因子の同定Gal-3過剰発現CML細胞の培養上清(conditioned medium; CM)は親株のCMに比し、CML細胞ならびにBMSCの増殖を促進することから、それぞれのCMを液体クロマトグラフィーで分離し、含有成分を検討した。Gal-3過剰発現CML細胞CMでは親株CMに存在するSERPINA1とアルブミンの複合体が特異的に消失していた。SERPINA1はがん細胞の増殖を抑制し、またGal-3はSERPINA1と結合能を有する。サイトカインアレイではGal-3過剰発現CML細胞CMでは親株CMに比し細胞増殖を促進するTGF-βが2倍以上に増加し、細胞増殖を抑制するCXCL-10やIL-10が半分以下に減少していた。2. Gal-3誘導性TKI抵抗性の克服効果の検討protein phosphatase 2A 活性化剤FTY720はBCR-ABL非依存的にBIMならびにBIDを誘導活性化することでCML細胞にアポトーシスを誘導すること、ABL KD変異によるTKI抵抗性を克服すること、TKIとの併用によりGal-3によるTKI感受性低下を克服することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に基づき進捗し、 CML細胞のGal-3誘導性オートクライン・パラクライン増殖メカニズムを誘導する液性因子を検討した。その結果、SERPINA1, TGF-β, CXCL-10, IL-10であることを突き止めた。この研究結果は、Nakayama R et al. Suppression of SERPINA1-albumin complex formation by galectin-3 overexpression leads to paracrine growth promotion of chronic myelogenous leukemia cells. Leuk Res. 2014;38:103-108で報告した。さらに、protein phosphatase 2A 活性化剤であるFTY720はGal-3誘導性TKI抵抗性を克服することが明らかとなり、この研究結果は、Kiyota M et al. FTY720 induces apoptosis of chronic myelogenous leukemia cells via dual activation of BIM and BID and overcomes various types of resistance to tyrosine kinase inhibitors. Apoptosis 2013;18:1437-1446で報告した。
1. CML細胞のGal-3誘導性のオートクライン・パラクライン増殖メカニズムを誘導する液性因子の機能解析。(1)親株由来CMに液性因子を添加し、細胞増殖に与える効果をMTTアッセイなどにより検討、(2)Gal-3過剰発現株由来CMに液性因子の受容体に対する中和抗体による効果を検討、(3)液体クロマトグラフィーにおける各フラクションの細胞増殖への効果を検討2. Gal-3過剰発現による液性因子の制御メカニズムの検討同定された液性因子について定量的RT-PCR法やウェスタンブロット法によりGal-3による発現制御のメカニズムを検討することで、さらに標的分子を探索する。3. 液性因子の制御メカニズム、関連シグナルを標的とした分子標的治療戦略の開発を進める。(1)In vitro実験:in vitro骨髄微小環境モデルにて、FTY720以外のGal-3誘導性TKI抵抗性を克服しうる薬剤を探索する。(2)In vivo preclinical model:3-(1)にて有望であった標的治療薬について、既存のCMLモデルマウスにて効果を検討する。具体的には治療的効果をCMLモデルマウスにおいて単独、ならびにTKIとの併用により比較検討する。4. Gal-3過剰発現によるCML細胞の形質変化の検討Gal-3過剰発現CML細胞株は親株に比し、細胞増殖能のみならず、コロニー形成能も亢進していることが予備的検討で明らかとなっている。この幹細胞性獲得を促進する分子"X"を同定し、機能解析を行う。
今年度、消耗品の購入が計上分よりも少なく、また成果発表のための旅費・宿泊費を使用しなかったため。次年度、消耗品(仔牛血清、培養液、器具、抗体、遺伝子導入薬、PCR関連物品、実験動物)の購入、国内・海外での学会発表、論文投稿費用などに使用する予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Leuk Res.
巻: 38 ページ: 103-108
10.1016/j.leukres.2013.07.026.
Apoptosis
巻: 18 ページ: 1437-1446
10.1007/s10495-013-0882-y.