研究課題/領域番号 |
25860794
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
和田 妙子 自治医科大学, 医学部, 助教 (30382956)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | T細胞性リンパ芽球性白血病 / ヒストン脱メチル化酵素 |
研究概要 |
LSD1はヒストン脱メチル化する酵素で、染色体構造をダイナミックに改変し、別々の染色体に位置するプロモーターを会合させ、転写を複合的に調節する。申請者らは、造血幹細胞において放射線等によってDNA二重鎖切断が惹起されると、切断部位からの転写を抑制するためにLSD1複合体がリクルートされるが、LSD1に量的・質的異常が存在すると染色体転座が誘導されるという仮説を立て研究を開始した。 哺乳類のLSD1にはalternative splicingによりエクソン2と8に挿入が入ることで生じる4種のアイソフォームが存在することが報告されている。私たちはエクソン2の挿入(2a)の有無により生じる2つのアイソフォーム、2a-/8a- (-/-) と2a+/8a- (+/-) が存在していることを確認した。さらに、このもっとも短いアイソフォーム (-/-) はヒストン脱メチル化活性の本体であり、その発現は造血幹細胞において極めて低く、白血病細胞で強発現していることを確認した。 私たちは造血幹・前駆細胞特異的にLSD1 (-/-) を強発現するトランスジェニック・マウスを作製した。これにより、LSD1 (-/-) を低レベルおよび高レベルに発現する2ラインを得た。LSD1 (-/-) の発現量依存的にLSK細胞の増加がみられ、さらにLSD1の低発現ラインの骨髄細胞は幹細胞性を示し、高発現のラインでは造血幹・前駆細胞の増加を確認した。これはヒト造血幹・前駆細胞におけるLSD1アイソフォームの発現パターンと一致していた。これらトランスジェニック・マウスは一見して正常ではあるが、造血幹細胞の自己複製能が亢進していることから、さらなる遺伝子異常を追加することで白血病の発症や染色体転座の頻度が増加するのではないかと考えた。実際、T細胞性リンパ芽球性リンパ腫・白血病をより早期かつ高頻度に発症した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA二重鎖切断部位へのLSD1の局在について調べた。放射線照射後にLSD1がDNA二重鎖切断部位に局在することを共焦点顕微鏡を用いて確認した。 正常細胞と転座を有する白血病細胞におけるLSD1の質的・量的異常について解析した。短いアイソフォーム (-/-) はヒストン脱メチル化活性の本体であり、その発現は造血幹細胞において極めて低く、白血病細胞で強発現していることを確認した。 私たちはSca-1プロモーターを用いて造血幹・前駆細胞特異的にLSD1 (-/-) を強発現するトランスジェニック・マウスを作製した。これらトランスジェニック・マウスは造血幹細胞の自己複製能が亢進していることが分かった放射線照射を行うと、T細胞性リンパ芽球性リンパ腫・白血病をコントロール群に比べより早期かつ高頻度に発症することが分かった。 上記実験を行い、In vivoとIn vitroの両方においてLSD1の質的・量的異常を確認でき、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
Sca-1プロモーターを用いて造血幹・前駆細胞特異的にLSD1 (-/-) を強発現するトランスジェニック・マウスに放射線照射を行い2次的損傷を加えると、T細胞性リンパ芽球性リンパ腫・白血病をコントロール群に比べより早期かつ高頻度に発症することを確認した。今後はこれらのマウスの腫瘍細胞を用いたFISHなどを行い染色体転座の発症の頻度を定量する。また、染色体転座が生じた場合、LSD1のDNA結合配列を解析し、転座の起こりやすい位置を解析する。 一方、LSD1阻害剤の予防的投与で放射線照射により誘発したT細胞性リンパ芽球性リンパ腫・白血病を抑制できるか確認する。
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