研究実績の概要 |
LSD1はヒストンH3K4およびH3K9を脱メチル化する酵素で、標的遺伝子の発現をエピジェネティクに制御する。LSD1は様々ながんで強発現しているが、発がんの機序については不明の点が多い。今回、LSD1の白血病発症における役割について、トランスジェニック・マウスを作成して解析した。 LSD1発現は正常ヒト造血幹/前駆細胞においては極めて低く、Tリンパ芽球性リンパ腫/白血病を含む白血病細胞で強発現していた。哺乳類のLSD1にはalternative splicingによってexon 2と8に挿入が入ることで生じる4種のisoformが存在するが、その最も短いisoformの発現は造血幹/前駆細胞において極めて低く、白血病細胞では強発現していた。このisoformを造血幹/前駆細胞に導入したところ、自己複製能の亢進が観察された。そこでこの最も短いisoformを造血幹/前駆細胞に強発現するトランスジェニック・マウスを作製し、骨髄細胞を解析するとLin-Sca-1+c-kit+未分化造血幹/前駆細胞の増加とHoxAファミリーの発現上昇が見られた。さらに骨髄Sca-1陽性細胞のアレイ解析を行うと、造血幹細胞の制御やT細胞系列への分化にかかわる遺伝子の発現が増加していた。これらのトランスジェニック・マウスは胸腺でTリンパ球のfocal hyperplasiaが見られたが、造血能は正常で白血病の発症も見られなかった。そこで放射線照射を行ったところ、休止期造血幹細胞にLSD1を発現するlineにおいて早期かつ高頻度にTリンパ芽球性リンパ腫/白血病の発症が観察された(Blood, 2015 Apr 22, accepted)。 以上から、造血幹細胞におけるLSD1の最も短いisoformの強発現は、白血病発症の1次的遺伝子異常であり、単独では白血化には至らないが、さらなる変異が加わることでfull-blownの白血病が発症すると考えられた。LSD1の最も短いisoformは、Tリンパ芽球性リンパ腫/白血病を始めとする造血器腫瘍の進展阻止や治療の標的分子として期待される。
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