研究課題/領域番号 |
25860800
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
山崎 奈穂 (鈴木奈穂) 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 免疫制御研究部, 上級研究員 (20646848)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | IL-10 / B細胞 / 形質細胞 / 免疫グロブリンクラススイッチ |
研究実績の概要 |
申請者らのグループは、過去にマウス脂肪組織内に従来の制御性B細胞とは異なる表現型を持つIL-10産生性B細胞集団が存在し、脂肪の慢性炎症を抑制していることを見出した(Nishimura et al. Cell Metabol. 2013)。申請者は、このIL-10産生B細胞を用いてB細胞におけるIL-10産生機構を解明するためにIl10発現を誘導するmaster regulatorを同定すること、および制御性B細胞の分化機構を解明することを目的として研究を始めた。 申請者は、IL-10Venusレポーターマウスを導入し、解析を行った結果、脂肪組織B細胞においてVenusの発現は確認できなかった。この理由には、本解析で用いたレポーターコンストラクトが脂肪組織では機能しなかったことが考えられる。一方、申請者は平成25年度の成果としてIL-10Venusレポーターマウスの脾臓と骨髄においてIgM+ B220lo CD138hiの形質細胞様の細胞が主要にIL-10産生を担うことを見出した。この新たなIL-10産生細胞は、細胞表面にIgMを発現する一方で高いIgM分泌能を有しており、その他の細胞表面抗原の発現やマイクロアレイによる遺伝子発現解析からplasmablastsと形質細胞の両方の性質を持つことが明らかになった。平成26年度の成果としては、申請者はIL-10産生B細胞がIgMを発現したまま形質細胞分化することに着目し、免疫グロブリンクラススイッチを誘導するシグナルがB細胞におけるIL-10産生を抑制することを見出し、さらに形質細胞分化に関与するBlimp-1がIl10発現を制御することを見出した。また、平成27年度は、IL-10産生性形質細胞が抗原刺激を受けた際にクラススイッチを経て生成される形質細胞の生成および抗体産生をサポートする役割を持つことを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の3年目である平成27年度は、制御性B細胞が産生するIL-10の慢性炎症に対する効果の検証として(1)疾患モデルマウスにおける制御性B細胞を用いた治療モデル、(2)ヒトB細胞を用いたIL-10産生の誘導と機能解析を行うことを目標に掲げていた。研究を進める中で、申請者は脾臓と骨髄に存在するIgM+B220loCD138hi細胞が主要にIL-10を産生することが明らかになったため、 この細胞に注目し解析することでB細胞におけるIL-10産生機構を解明することに目標を変更し、平成26年度までに免疫グロブリンクラススイッチを誘導するシグナルがB細胞におけるIL-10産生を抑制することおよび形質細胞分化に関与するBlimp-1がIl10を制御することを見出した。そこで平成27年度は、脾臓および骨髄におけるIgM+B220loCD138hi細胞が産生するIL-10の機能と役割を明らかにするためにB細胞欠損マウスに野生型またはIL-10欠損B細胞を移入し、抗原刺激後の形質細胞分化および抗体産生能を比較した。その結果、IL-10欠損B細胞を移入したマウスは野生型B細胞を移入したマウスと比較してクラススイッチを経た形質細胞であるIgG+CD138+細胞の割合および抗原特異的IgGの濃度が低いことが明らかになった。以上の結果は、生体が抗原刺激を受けた際に、IgM+B220loCD138hi細胞はクラススイッチを経ずに先に分化し、クラススイッチを経て後から分化するIgG型の形質細胞の生成およびその抗体産生をサポートしている可能性が示唆された。以上の結果についてを現在論文執筆中である。
|
今後の研究の推進方策 |
B細胞におけるIL-10産生機構の解明というテーマに沿って、申請者は新たなIL-10産生性B細胞亜集団を見出し、それを解析することでIL-10産生を制御するmaster regulatorを同定するに至った。また、生体内におけるIgM+B220loCD138hi細胞が産生するIL-10の機能と役割を明らかにし、この研究結果については論文執筆中である。 一方、申請者はIL-10産生性のIgM+B220loCD138hi細胞のマイクロアレイによる遺伝子発現解析の中で、この細胞ではIl10以外にIl13の発現が高いことを見出した。IL-13は主に2型ヘルパーT細胞から産生され、アレルギーや寄生虫感染時の免疫応答に関与することが知られている。既に申請者は平成27年度までにB細胞から産生されるIL-13がエンドトキシンによる敗血症ショックの際に免疫抑制に働くことを見出しており、今後はB細胞におけるIl13の発現制御機構およびB細胞が産生するIL-13の機能や役割を解明することを研究目標とする。 申請者は平成27年度に産前産後休暇また育児休業に伴い平成28年度までに本科研費の補助事業延長を申請した。そのため平成28年度中に以上の研究成果を学会および学術論文への発表を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請者は、平成27年度中に出産する予定が生じたため産前産後休暇また育児休業の取得に伴う科学技術研究費助成事業の補助期間1年延長を申請し、承認された。
|
次年度使用額の使用計画 |
申請者は平成28年度の職場復帰後に、残額を学術論文の英文校正や投稿料、リバイス実験のための物品購入に使用する予定である。また、国内外の学会発表のための旅費および学会参加費に使用する予定である。
|