研究課題/領域番号 |
25860818
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
中島 章人 順天堂大学, 医学部, 助教 (30439294)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 胸腺 / Aire / Nod1 / peptidoglycan / 樹状細胞 / migration / Treg |
研究概要 |
腸内細菌は腸管内の免疫系の維持に重要な役割を果たしているだけではなく、全身の免疫系に対しても重要な影響を与えることが近年明らかになりつつある。本研究では腸内細菌が腸管とは遠隔の臓器であり、1次リンパ組織である胸腺にも影響を及ぼしているかを、胸腺上皮細胞(TEC)特異的に発現している転写因子autoimmune regulator (Aire)の発現量の解析を介して検討した。まず、腸内細菌がいない無菌(GF)マウスとGFマウスのlittermateで生後直後にSPF環境下に移して飼育したSPF化マウスのTECのAireの発現量を比較したところ、GFマウスの方が有為にAireの発現が低かった。腸内細菌由来の免疫活性物質に着目したところ、ペプチドグリカン(PGN)は、腸管のリンパ組織の発達に重要であるという報告があるとともに、血中を循環し、骨髄の好中球を活性化するために重要であるという報告があった。そこで血中循環している腸内細菌由来のPGNがTECに作用してAireの発現に関与していると予測し、PGNのレセプターであるNod1の欠損マウスを使ってAireの発現を解析した。通常飼育下で5週齢のNod1欠損マウスでは野生型と比べてAireの発現と、Aire依存的な自己抗原の発現量が低下していた。次にPGNがNod1を介してAireの発現を上昇させているかを確認するために、Nod1リガンドであるC12-iE-DAP存在下で胎児胸腺培養(FTOC)を行ったところ、Aireの発現上昇を認めた。T細胞のRANKLによるAireの発現誘導の可能性を排除するため、dGuo処理により、T細胞を除去してからC12-iE-DAP刺激を加えたところ、やはりAireの発現上昇が確認された。以上の結果から、腸内細菌由来のPGNがTEC細胞でNod1を介してAireの発現誘導に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り、腸内細菌と胸腺を結ぶ新しいネットワークを解明しつつあり、計画通りおおむね順調に研究は達成できている。腸内細菌由来のペプチドグリカンが胸腺Aireの発現に関与していることを、無菌マウスまたはNod1欠損マウスを使ったin vivoの実験と胎児胸腺培養や培養胸腺上皮細胞の細胞を使ったin vitroの両面から実験することができた。当初はAireの発現解析に関して、real-time PCRと免疫染色のみの評価であったが、FACS解析が可能な抗Aire抗体を入手でき、さらには、数が少ない胸腺上皮細胞をソーティングやFACSで分離し細胞染色することができるようになったことから、Aireの発現レベルをFACSでも定量的に示すことができた。この結果は、以前得ていたreal-time PCRや免疫染色の結果と同じであり、主張をconfirmすることができた。また胸腺上皮細胞の培養細胞を入手できたことから、in vitroでの解析も進み、ペプチドグリカンがAireの発現を上昇させることをreal-time PCRやFACSによって示すことができた。さらには、ペプチドグリカンだけではなく、Staphylococcus aureus由来のStaphylococcal enterotoxin B (SEB)もAireの発現を上昇させることが分かった。SEBは胸腺内で胸腺上皮細胞のMHC class IIとTCR Vbを強く架橋してネガティブセレクションを起こすことが知られていたが、SEBによるネガティブセレクションを免れたT細胞にRANKLが発現し、胸腺上皮細胞にAireを誘導させることが分かった。ペプチドグリカンによるAireの誘導はNod1を介する新規のAire誘導経路であり、SEBによるAireの誘導はすでに報告のあるRANKL依存的な経路であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
腸内細菌由来のペプチドグリカンが胸腺上皮細胞のNod1を介してAireの発現上昇に影響していることを平成25年度の実験結果からおおむね示すことができた。今年度は計画通り、腸管と胸腺を結ぶ新たなネットワーク解明の2つ目の研究課題として掲げた、腸管由来の樹状細胞が胸腺のTreg産生に影響しているかについて取り組みたい。腸管DCが腸管から各臓器にmigrationするにあたっては、腸内細菌の影響を大きく受けていると考えている。DCの胸腺へのmigrationが減ると、Treg細胞の産生が低下し、自己免疫やアレルギー疾患の発症や増悪に関連するのではないかと予測している。 非吸収性の抗生剤をマウスに投与することで腸内細菌を死滅させることができることが分かっている。抗生剤投与マウス(ABX)と通常の野生型マウス(cont)から調整したDCの動態と胸腺のTreg産生を比較することで、腸内細菌の関与を明らかにする。DCの動態を明らかにするために、腸管から調整したDCをCFSEラベル後、adoptive transferして、胸腺へのmigrationを観察する。DCの数を増やすために、Flt3L-B16メラノーマ細胞(入手済み)を前投与してDCを増やしておく。ABX郡、cont郡においてmigrationしたDCの数を比較する。DCが胸腺にmigrationするサブセットとしてplasmacytoid DC(pDC)が知られている。MigrationしたDCのうち、pDC(PDCA-1+CD11c+)の数を検討する。さらには、pDCが胸腺にmigrationするために、ケモカインレセプターであるCCR9が必要であるという報告があるので、ABX郡、cont郡において腸管pDCのCCR9の発現量やmigrationしたpDCのCCR9の発現量を検討する。
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