研究課題
膠芽腫は5年生存率が10% 程度と予後が悪く、最も悪性度の高い脳腫瘍である。現在までに効果的な治療法は確立されておらず、その病態全容の解明と治療法の確立が求められている。近年、欧米において膠芽腫の90% 以上でヒトサイトメガロウイルス (HCMV)の感染が認められるとの報告があり、病因との関与が指摘されている。その一方で、膠芽腫とHCMV感染との関連性に疑問を呈する報告もあり、その実態は未解決のままである。本年度の研究では、本邦の膠芽腫でのHCMVの感染実態を明らかにするとともに、他のウイルス関与の可能性を検討した。対象とするウイルスとして、1)HCMV、2)Epstein-Barrウイルス (EBV)、3)メルケル細胞ポリオーマウイルス (MCPyV)、そして特定疾患への関与が未解決であるポリオーマウイルスの 4)ヒトポリオーマウイルス6 (HPyV6)、5)ヒトポリオーマウイルス7 (HPyV7)、6) ヒトポリオーマウイルス9 (HPyV9)、および7)ヒトパピローマウイルス (HPV)の7種についての感染を調べた。本邦の膠芽腫症例のパラフィン包埋切片および凍結組織よりDNAを抽出した。このDNAを鋳型とし、リアルタイムPCRにより7種のウイルスの検出を行った。HCMV、EBV、MCPyV、HPyV6、HPyV7およびHPyV9のゲノムは検出されなかったが、HPVゲノムは21%の膠芽腫症例で検出された。検出されたHPVのゲノタイプはいずれも16型、18型のハイリスク型のHPVであった。さらにHPV由来蛋白発現も免疫組織染色で確かめられた。これらの結果は、本邦発症の膠芽腫とHCMV感染に因果関係が認められないことを示すものであった。一方、HPV感染が一部の膠芽腫に認められ、HPVが膠芽腫の病態形成に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、新規癌ウイルスであるメルケル細胞ポリオーマウイルスの悪性腫瘍における蔓延性を調べることを目的のひとつにしている。本年度は膠芽腫でメルケル細胞ポリオーマウイルスも含めて、ヒトサイトメガロウイルスや種々の癌ウイルスの感染実態を調べたが、検出はされなかった。しかし、意外なことにヒトパピローマウイルスのゲノムやウイルス由来抗原が一部の膠芽腫に検出された。これらの知見は高く評価され、国際医学誌に掲載された。よって、本研究は当初の計画通りに進展していると判断した。
本年度の研究成果に基づき、「ウイルスと膠芽腫」の因果関係をさらに詳細に調べる価値があると考えられる。膠芽腫におけるウイルス感染率は本邦症例と欧米からの症例では相違があることが示唆されたため、まだ調べられていない種々のウイルスの感染実態を本邦症例について解析する。
本年度は、試薬など消耗品を中心に最低必要限の予算を計上したため、繰越金が発生した。
次年度は最終年度として、ウイルス遺伝子発現解析用試薬、蛋白発現解析用試薬、プラスティック器具などの物品費、および外注費、学術誌掲載のための費用を予算に計上する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Infectious Agents and Cancer.
巻: 10 ページ: -
10.1186/1750-9378-10-3.
臨床血液
巻: 55 ページ: 965-969
http://www.kochi-ms.ac.jp/