年齢、IQをペアマッチさせた17人ずつのASD児群、ADHD児群、TD児群(各17名、9.8-15.8歳、平均11.9歳)に関して、新奇物の適応使用或いは日常用具の応用使用に関わる課題と典型物使用に関わる課題(Which / How to Apply Tools test; WHAT)のパフォーマンス比較を行った。個人内インバランスの指標である変数[応用-典型](両課題の反応時間の差分)はADHD群とTD群に比してAS群に優位な延長を認めた。この結果は、その背景にある具体的事物認知優位、抽象概念劣位というASD特有の認知的インバランスを表しているものと考えられた。絶対値の異常(各課題自体の異常)では捉えられない、個人内の相対的な認知バランスの異常を捉え得たという点で、本手法はASDの質的異常(インバランス)を量的・スペクトラルに捉え得る可能性がある。また、年齢、IQをペアマッチさせた20人ずつのASD者群とTD児群(20–37歳、平均28.5歳)についてWHATを施行してもらい、道具使用の適応的判断に関わる認知階層の各レベルにおける脳賦活部位の比較、そしてそれら脳賦活のバランスの比較、それら脳賦活のバランスとADIRスコア、ADOSスコアの相関を評価した。各課題の脳賦活部位に群間での有位な差は認めなかったが、新奇適応に関するブロック課題中の総体的脳活動に関して、新奇物判断のイベント課題に特異的な脳活動と典型判断のイベント課題に特異的な脳活動の比が、ADOSのコミュニケーションスコアと相関を認めた。新奇適応脳活動の相対的な弱さと典型判断脳活動の相対的な強さがASDの重症度と相関することを示唆する所見であり、ASDのインバランス仮説を裏付ける結果である。課題自体の群間有意差が無いという点が、寧ろ我々の手法の検出力の高さを示していた。
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