我々は固形腫瘍に対する新規治療法の開発を目指した研究を行った。他人をドナーとする移植法は同種免疫反応による抗腫瘍効果が期待できる半面、移植片対宿主病のような重篤な合併症の危険性を伴う。一方、自家造血幹細胞移植では同種免疫反応が生じないため抗腫瘍効果は誘導されないと考えられている。今回、自家移植であっても効果的抗腫瘍免疫を生み出す方法について検討した。まず、同系マウスを用いて自家造血幹細胞移植実験モデルを作成した。ついで、腫瘍を持たないナイーブドナー、担がん状態のドナーそれぞれ骨髄細胞と脾細胞を全身放射線照射により前処置を行ったレシピエントマウスへ輸注した。移植後のレシピエントにおける腫瘍の増殖能について検討したところ、あらかじめ腫瘍抗原の暴露を受けている担がんマウスドナーにおいて抗腫瘍効果が生じることを確認した。さらに、担がん状態のドナーにおいて、骨髄由来抑制性細胞は腫瘍抗原に対する予備免疫の妨げとなる可能性があるとの仮説を実証するべく、骨髄由来抑制性細胞を減少させることが知られるゲムシタビンを担がんドナーマウスへ投与した結果、腫瘍特異的CD8陽性T細胞が増加していることを確認した。そこで、ナイーブドナー、担がんドナー、担がん状態にゲムシタビン投与を受けたドナーと条件の異なるドナーからそれぞれ移植を行った。その結果ゲムシタビン処置をしたドナーからの移植郡で最も強い腫瘍増殖抑制効果を認めた。この結果、担がん状態のマウスに対してゲムシタビンを投与することで腫瘍抗原に対する予備免疫が増強し、移植後に強い抗腫瘍免疫を誘導したものと考えられた。現在、再現性の確認実験と結果のメカニズムに関する実験を行っているところである。
|