研究実績の概要 |
骨粗鬆症予防のために骨組織に最も豊富に存在する骨細胞の骨石灰化における役割を明らかにすることは重要である。そこで、骨細胞が分泌するWntシグナル阻害因子のスクレロスチンを鍵分子として、骨における石灰化分子機構を解明することが本研究の目的である。 骨芽細胞分化培養でスクレロスチン遺伝子をコードするSOSTの発現上昇を認めるヒト骨肉腫由来細胞株を用いて遺伝子発現をマイクロアレイにより比較検討した。分化培養で発現増加を示した転写因子は70個であった。種々の方法により、候補転写因子を20個に絞った。選択された候補転写因子をヒト皮膚線維芽細胞に強制発現させ、抑制的因子を除外した結果、ATF3, KLF4, PAX4, SP7の4因子によるSOST発現誘導が最大となった。培養4週間後には培養液中へのスクレロスチン分泌を確認した。別のWntシグナル阻害因子であるDickkopf1の発現も4因子の導入によって増加していた。さらに、副甲状腺ホルモン添加によって4因子による誘導SOST発現と分泌スクレロスチン濃度は減少した。低酸素培養下での誘導SOST発現は、正常酸素培養下と比し増加を認めた。プロスタグランジンE2添加によって誘導SOST発現は増加した。4つの転写因子の導入により、ヒト線維芽細胞におけるスクレロスチン発現誘導システムを実現した。この実験系がSOST制御機構の解明や代謝性骨疾患に関連した創薬につながることが期待できる。 また、X連鎖性低リン血症性くる病(XLH)におけるスクレロスチン濃度およびカルシウム・リン関連マーカーを検討した。対象はXLH11名で、年齢は1.1~44.5歳(中央値11.4歳)。血清スクレロスチン濃度と血清カルシウム値との間に相関を認めた(r -0.776、p 0.005)。XLHにおけるスクレロスチン濃度測定の有用性については、さらに検討する必要がある。
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