研究課題
若手研究(B)
(1)研究目的:脊髄性筋萎縮症(SMA)は最も頻度の高い致死性の運動ニューロン病で、95%以上にSMN1遺伝子の欠失を認めている。現在、いくつかの薬剤の治験が海外ですでに開始されている。SMAモデルマウスを用いた動物実験では、早期に治療が開始されるほど効果が高い事が証明されており、発症前治療が今後重要となる。本研究では濾紙血を用いた高解像度融解曲線分析(HRMA)法によるSMN1遺伝子欠失迅速診断法を確立する。HRMAは多検体を短時間・低コストで解析できる。また、濾紙血を用いる事により、先天性代謝異常症マススクリーニングのシステムを利用可能である。この事から、本研究が確立されれば、将来的に必要となるマススクリーニングにも非常に有用である。また、乾燥濾紙血以外の検体(例えば、唾液、尿)を用いたスクリーニングの可能性についても検討することにした。(2)研究計画:初年度は、乾燥濾紙血(ワットマンFTA Eluteカード―GEヘルスケアバイオサイエンス社)から抽出したDNAを用いて、HRMA解析が可能であるか否かを検討した。また、乾燥濾紙血以外の検体(唾液、尿)が遺伝子診断用検体として使用可能か否かについて検討した。(3)研究結果:煮沸法で乾燥濾紙血から抽出したDNAでは、HRMA解析は出来なかった。これは、血球成分の混入等の理由で、均一なPCR産物が得られなかったために、HRMA解析が不能になったものと思われる。しかし、唾液、尿が遺伝子診断用検体として使用可能か否かについて調べる目的で、DNA抽出、従来型PCR増幅を検討したところ、両方ともに良好な結果を得た。(4)結論:煮沸法で乾燥濾紙血から抽出したDNAでは、HRMA解析はできない。スクリーニング用検体として唾液、尿を用いるシステムを構築することは可能である。
2: おおむね順調に進展している
(1)煮沸法で乾燥濾紙血(ワットマンFTA Eluteカード―GEヘルスケアバイオサイエンス社)から抽出したDNAは、従来型PCR増幅と制限酵素処理を組み合わせた方法(PCR-RFLP法)で、SMN1遺伝子欠失診断を行うことが出来る(このことは、私たちがすでに論文報告を済ませている)。しかし、PCR-RFLP法は、時間と労力がかかり、大規模なスクリーニングには向いていない。そこで、私たちは、PCR-RFLP法のかわりにHRMA法を利用することを考えた。HRMA解析は、均一なPCR産物を得ることが前提条件である。煮沸法で乾燥濾紙血から抽出したDNA検体には、おそらく血球成分等のPCR阻害物質、あるいは濾紙に染み込ませてあった薬剤が混入していたものと思われる。そのために、均一なPCR産物を得ることが出来なくなり、HRMA解析不能に至ったものと思われる。これらの事態は、実験開始以前に予想できなかったものである。(2)採血困難例・採血忌避例に対処するために、唾液、尿を用いたスクリーニング法を考案した。この唾液、尿を用いた遺伝子診断の可能性に関する検討では、非常にポジティブな結果が得られた。これらの検体を利用すれば、乳児からも、まったく侵襲なく、遺伝子診断が可能になる。(3)私たちの研究は、脊髄性筋萎縮症の遺伝子診断に関してすでに明瞭な結果が得られていて、「研究はおおむね順調に進展している」と考えて良いと思われる。
(1)私たちは、今回の研究で、均一なPCR産物を得ることがHRMA解析の前提条件であることを再認識した。煮沸法で乾燥濾紙血から抽出したDNA検体には、おそらく血球成分等のPCR阻害物質、あるいは濾紙に染み込ませてあった薬剤が混入していて、そのために、均一なPCR産物を得ることが出来なくなり、HRMA解析不能に至ったものと思われる。今後は、(A)煮沸法で乾燥濾紙血から抽出したDNA検体を精製する、(B)煮沸法以外の方法でDNAを抽出する、の2方面から検討を進めたい。(2)また、今回の研究で、唾液、尿が遺伝子診断用検体として使用可能であることが明らかになった。唾液、尿から抽出したDNAで、従来型PCR増幅は可能であった。今後は、制限酵素処理についても検討し、「唾液、尿を遺伝子診断用検体として用いる、PCR-RFLP法による診断法」の確立を目指す予定である。
注文した試薬・物品の入荷が遅れているために、支払いもなく、次年度使用額が生じた。注文した試薬・物品の入荷があり次第、予定通りに研究を進める。
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