研究課題/領域番号 |
25860884
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
横井 健太郎 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20459655)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 先天性代謝異常症 / ムコ多糖症II型 / 骨髄移植 / キメリズム |
研究実績の概要 |
MPSII型はライソゾーム蓄積病(LSD)で、IDS活性能の低下が本症の病因である。その結果、GAGが全身性に蓄積し臓器障害をもたらされるが、本疾患での骨髄移植(BMT)におけるキメリズムと治療効果の関係については解明されていない。 8週齢MPSII型のモデルマウスに全身放射線照射(9Gy)を行い、MPSII型モデルマウス由来の骨髄細胞と野生型マウス由来の骨髄細胞の比率が25%、50%、75%、100%となるように混合した後、2x106個の骨髄細胞を移植した。BMT後8週と12週にフローサイトメトリー法にて生着率を計算した。さらに治療後12週に、BMT群とコントロールマウス群で標的臓器における蛍光分析による血清IDS活性およびGAGの測定、またCT撮影による骨評価を行った。 全白血球および各血球系のキメリズムは、移植片の割合と同様の傾向を示した。GAGの減少は肝臓や脾臓では低いキメリズムでも治療効果が十分得られたが、心臓では75%以上のキメリズムが必要であった。IDSの改善はGAGの減少と同様の傾向を示した、すなわち肝臓や脾臓では低いキメリズムでも治療効果が十分得られたが心臓では75%以上のキメリズムが必要であった。さらに、脳や腎臓では100%キメリズムであっても有意なGAGの減少は認めず、骨における治療効果も乏しかった。過去に行われた他のLSDモデルマウスのBMTと比較検討した結果、移植片の割合に一致した生着率や臓器特異的に効果を認める傾向は同様であった。しかし、充分な治療効果を得るためにはMPSII型のBMTではより高いキメリズムが必要であることが明らかにされた。以上から、MPSII型のBMTにおける治療効果はより高いキメリズムが望ましく、低いキメリズムの場合には移植後のドナーリンパ球輸注や酵素補充療法などの追加治療を考慮すべきと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ムコ多糖症II型(MPS II型、あるいはハンター症候群)はX連鎖劣性遺伝形式のライソゾーム蓄積病(LSD)である。1980年代より骨髄移植(BMT)は、LSDの治療として注目されている。しかしながらLSDでは通常免疫能が保たれているため、結果としてドナー細胞の生着に強力な移植前処置を必要とするが、骨髄非破壊的移植前処置は、ドナー細胞の割合の低いキメリズムを生じるため、その治療効果が十分でない場合がある。これまで、ゴーシェ病I型、MPS VII型、ファブリー病に関しては、低いキメリズムによる主要臓器への治療効果に関して報告されている。いまだMPS II型においてキメリズムと治療効果との関係については解明されておらず、今後、より侵襲性の低い移植前処置が確立された際には非常に重要な情報となる。そこで我々は様々な割合で正常細胞と混合した移植片を用いて人工的に作り出した混合キメラ状態を作成し、ドナー細胞の生着率、および蓄積物質と酵素活性を諸臓器で検討しその成果をJ Inherit Metab Dis(IF4.138)に報告し、論文化した(38:333-340)。本研究では平成27年度より論文化を行う予定であったが、当初の計画を1年近く上回ったため。
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今後の研究の推進方策 |
以前の我々の報告ではLSDに用いる酵素製剤を経口投与することで中和抗体の発生を予防できることが明らかとなった。精製酵素を用いた場合治療効果を得るには大量の投与が必要であるが、植物細胞由来であれば細胞壁を有するために少量の投与でも酵素が腸管まで到達できると考えられている。 中枢神経障害があるMPS II型ではBMTによる治療効果も注目されているが、我々の測定方法では脳におけるGAGに関して正常マウスとの差を認めず、GAGの減少が大脳や小脳で生じたかに関し明らかにすることができなかった。モデルマウスに対し脳室内に直接ERTを施行したにも関わらず全脳におけるGAGの改善がわずかであった既報や100%キメリズムのBMTにおいてMPS II型特異的GAGの減少が大脳で観察されなかった報告、今回の研究結果も踏まえ、BMTによるMPS II型における中枢神経系への治療効果は乏しいと考えられた。 そこで、今回我々は、植物細胞を使用した酵素製剤の経口投与による免疫寛容導入および中枢神経への酵素補充をムコ多糖症II型(MPS II)モデルマウスを用いて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
MPS II型においてキメリズムとBMTの治療効果の関係については解明されておらず、様々な割合で正常細胞と混合した移植片を用いて人工的に作り出した混合キメラ状態を作成し、ドナー細胞の生着率、および蓄積物質と酵素活性を諸臓器で検討した。その結果、MPSII型のBMTにおける治療効果はより高いキメリズムが望ましく、低いキメリズムの場合には移植後のドナーリンパ球輸注や酵素補充療法などの追加治療を考慮すべきと考えられ、その成果を論文化した。当初の計画を一部の部分では上回るスピードで研究成果が出ているため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
我々のこれまでの結果ではMPS II型における中枢神経障害へのBMTの治療効果に関して検証が乏しいため、今後はMPS II型における中枢神経障害への効率の良い治療効果を得ることに焦点を絞って研究を進めていく予定である。
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