先天性代謝異常症の中でもライソゾーム蓄積病(LSD)の一部では造血幹細胞移植(SCT)が有効であるが、移植後のキメラ状態がどの程度臓器特異的な治療効果を示すかはこれまでほとんど検討されず、今回MPSII(ハンター症候群)モデルマウスを用いて人工的なキメラ状態を振り分けて比較した。振り分けた割合に一致して血球の生着を認め、肝臓や脾臓などでは低キメラ状態でもある程度の効果を認めた一方で中枢神経(大脳・小脳)では蓄積物質や酵素活性に有意な効果を認めなかった。我々の先行研究ではすでに酵素補充療法(ERT)単独やERTとSCTの組み合わせ、ERTの髄腔内投与などについても検討がなされ、やはり遺伝子治療(GT)のような酵素の大量発現が中枢神経の効果的な改善には不可欠であることが見いだされた。 現在確立されたGTもないため、現状では酵素を血中に大量発現させるには高容量のERTのみが可能である。しかし高容量のERTを繰り返すことで、酵素特異的なIgGあるいは中和抗体の産生を生じる可能性もあり、アナフィラキシーショックや治療効果の低下を招く可能性は否めない。すでに我々は他のLSDであるPOMPE病モデルマウスにCD3抗体を前処置として用いERTを行うことでIgGの産生を抑えることに成功しており、今後はCD3抗体などを用いた前処置と大量ERTを併用することで中枢神経への治療効果を高めることが可能であるかも検討する予定である。
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