研究実績の概要 |
統合失調症や自閉症の病因病態に関わる分子・神経回路的メカニズムの解明を目指す研究の一環として、実験用動物であるコモンマーモセットを病態モデルとした基礎研究を実施した。コモンマーモセットは霊長類であることからげっ歯類に比べてヒトとの遺伝的な相同性を持つことに加え、ヒトに近い家族構成や社会性を持つことから他の霊長類にはない特徴が見られる。 本動物を用いた病態モデルの作製には、妊娠期にウイルス感染を再現するため、擬似ウイルス感染による母体免疫活性化(MIA, maternal immune activation)を誘発するPolyIC:LCを妊娠90日目に投与した。出生した仔の脳組織中における脳神経形成に関連する遺伝子や統合失調症や自閉症患者群に有意に認められる遺伝子群の発現パターンについて、脳組織切片における遺伝子の発現パターンをin situハイブリダイゼーション法により検出し、溶媒投与したマーモセットを対照とし比較検討した。 本年度は昨年度に引き続き、脳神経形成関連遺伝子4種および疾患特異的遺伝子4種の計8種の遺伝子の発現パターンについて調べた。その結果、脳神経形成関連遺伝子1種でPolyIC:LC投与マーモセットから産まれた仔の中脳または脳幹領域において特異的な発現パターンが認められた。また、脳組織の外形および重量は対照群と比べて変化はなく、また、神経細胞がグリア細胞の細胞数にも変化が認められず、構造上の異常は認められなかった。 この事から妊娠期における母体免疫活性化が脳神経形成に関わる遺伝子の発現パターンに変化をもらたし、生後発達後の脳機能異常に関与する可能性が推測される。
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