研究課題
若手研究(B)
本研究では、エピ変異によるPrader-Willi syndrome症候群(PWS)症例の分子遺伝学的解析を通じ、PWSにおけるエピ変異発症機序を解明することを目的とし、4点の研究実施計画(①エピ変異症例の同定、②父方祖父母サンプルを用いたマイクロサテライト解析、③網羅的メチル化パターン解析、④次世代シークエンサーによる大規模シークエンス)を立案した。以下に各々の研究成果を列記する。①PWS201名を対象とした分子遺伝学的解析により、エピ変異症例を4症例同定した。また、責任領域内のメチル化可変領域(DMR)のメチル化状態がPWSと鏡像関係にあるAngelman症候群(AS)においてもエピ変異4症例を同定した。②患者両親祖父母の検体を入手できたエピ変異PWS3家系に対するマイクロサテライト解析の結果、全患者で父方祖母由来染色体にエピ変異が生じていた。この結果から、エピ変異PWS患者では、患者父親の配偶子形成過程において本来消去されるべき父方祖母由来染色体上のメチル化が消去されなかった結果、子供でエピ変異が発症した可能性が推測される。③エピ変異に対し、Infinium Human Methylation 450 BeadChipによる網羅的メチル化解析を施行し、既報告の方法(Court, 2014, Genome Res)に基づくメチル化データ解析により全ゲノム中50か所のDMRのメチル化状態を評価した。その結果、疾患責任領域内のDMR(MKRN3-DMR, NDN-DMR, MAGEL2-DMR, SNRPN-DMR)で、PWS症例で高メチル化、AS症例で低メチル化を示していた。また、責任領域以外では、PWSおよびASエピ変異症例ともにメチル化異常を示したDMRは同定されず、エピ変異症例のメチル化異常は疾患責任領域内に限局していた。この結果から、疾患責任領域のメチル化確立維持には、他染色体上のそれと独立したメカニズムが存在する可能性が示唆された。④解析対象遺伝子の選定、解析に用いるカスタムキット作成(Agilent社Haloplex)を行った。
2: おおむね順調に進展している
エピ変異を発症原因とするPWS患者の頻度は全PWS患者の1%前後と低く、本研究開始当初には解析対象症例の同定そのものが困難である可能性が想定されていた。しかし、当該年度までにPWSエピ変異4症例が同定されていたため、以後の解析が順調に進んだ経緯がある。また、メチル化状態がPWSと鏡像関係にあるASエピ変異症例4例も同時に解析できたことは、責任領域内のメチル化状態の解析に非常に有用であると考えられる。また、網羅的メチル化データの解析にあたり、既報告の方法が直接応用可能であったこと、解析に用いる正常コントロールデータが研究所内ですでに蓄積・整備されていたことより、当該年度における網羅的なメチル化データの検討がスムーズに行えた。
本研究課題における今後の推進方策について、研究実施計画ごとに列記する。①エピ変異症例の同定、②父方祖父母サンプルを用いたマイクロサテライト解析:現在も解析症例が蓄積されつつあり、今後新たに同定されたエピ変異症例に対しても③、④の解析を行う。③網羅的メチル化パターン解析:網羅的メチル化アレイでは48万か所のCpG部位におけるメチル化状態のデータが得られるため、データの解析における高精度なパイプラインの設定が必須となる。既報に基づくデータ解析によりDMRのみを対象としたメチル化状態の評価は可能であったが、DMR以外の領域におけるメチル化解析には本研究の対象症例サイズや解析目的に応じた修正が必要となることが判明した。したがって、現在新しいパイプラインを作成中であり、今後は修正パイプラインをもとにDMR以外の領域におけるメチル化状態の評価を行い、PWS/AS責任領域のメチル化異常がゲノムワイドにメチル化状態の変化をきたす可能性について検討する。また、発現に対する関与が想定される領域(遺伝子プロモータ部位など)でメチル化異常が認められた遺伝子がある場合、PWS表現型発症への関与の有無につき検討する。④次世代シークエンサーによる大規模シークエンス:疾患責任領域近傍に存在する遺伝子や非コーディング領域およびメチル化パターンの確立や維持に必要な遺伝子(メチル化DNA結合蛋白質遺伝子群など)の塩基置換や微小欠失・重複により、疾患責任領域内のエピ変異が惹起されている可能性を検討するため、全エピ変異に対して当該領域内のゲノム配列に対するオリゴを搭載したAgilent社Haloplexカスタムキット(作成済)とMiseqを使用し、上記の解析を行う。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
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