研究課題
若手研究(B)
本研究課題の最終目標は、子宮内発育遅延(fetal growth restriction, FGR)の主要な要因と考えられる胎児血流障害が、胎児脳のどの領域のどの細胞種(神経幹細胞、神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトなど)に最も損傷を与えるのかを解明することにより、FGR児に見られる中枢障害軽減の糸口を見出すことである。また、成長因子のなかでもFGFが細胞増殖のみならず低酸素による細胞障害からの保護因子となりうること、さらにPDGFがオリゴデンドロサイト増殖とともに神経細胞保護因子となりうるという報告もあり、FGRモデルラットと細胞培養系を有機的に組み合わせた研究によって胎児血流障害による脳損傷の新規治療法開発への道筋を示し、臨床において今なお治療法が確立しない脳障害および発達障害への治療へと導きインタクトサバイバルを目指すことである。今年度は、虚血・再灌流モデルを用いたFGRラットモデルの確立を行った。子宮動脈を一時的にクランプし虚血した後に、クランプを解除し再灌流して作製する。様々な妊娠日数、虚血時間で確認した。コントロールは開腹して子宮を腹腔外に出し、同時間おいた後に閉腹した。妊娠17日目に開腹し子宮動脈を30分間クランプした後、クランプを解除して閉腹し妊娠を継続させたところ、妊娠22日目に通常経膣分娩に至った。出生体重はFGR群 4.78±0.18g、コントロール群 5.30±0.11gで有意差を認め(p<0.05)、FGRモデルラットが作製できることがわかった。
3: やや遅れている
モデルの確立に当初の予定より時間がかかってしまった。負荷が強すぎると分娩に至らなかったり、出生体重が小さすぎてその後生存できなかった。負荷が弱すぎるとFGRモデルにならず、至適な手術時期や虚血時間を見出すことに時間を要してしまった。
次年度以降で、確立できたモデルを用い虚血感受性細胞種を同定する。同時に、神経幹細胞から分化誘導した様々な細胞種を低酸素虚血モデル培養系に移し虚血感受性細胞種を同定するとともに、既知の増殖因子を用いて各種細胞死に対する抑制効果を評価する。さらに行動実験および組織学的病変より治療効果を判定し、FGR児の脳障害予防および治療へと結びつくようなデータの蓄積、および効果の高い投与方法などを検討する。最も損傷を受けやすい時期および部位を調べるため、経時的に脳組織切片を作製しHE染色による細胞の数・形状・面積の評価、TUNEL染色・抗caspase3抗体による免疫染色によりアポトーシスの出現時期・程度の評価、抗BrdU抗体・抗phosphoH3抗体による新生細胞・細胞遊走の評価を行う。また、細胞種特異的分子マーカーの抗体(MAP2、β-Tubulin、NeuroD、NeuN、O1、O4、A2B5、MBP、GFAP、Nestin)を用いた免疫組織染色により、最も損傷を受けやすい細胞種の細胞数・形態学的相違を検討する。行動学的評価として、能動的回避反応、慣れを用いた記憶保持試験、回転棒試験、オープンフィールドでの基本行動の解析を行う。虚血・再灌流により出生した仔ラットの行動を調べ、ヒトFGR児の行動上の特性と比較する。治療法を開発するために、以下に述べる研究系を用いる。神経幹細胞から分化誘導した様々な細胞種を低酸素虚血モデル培養系に移し、虚血感受性細胞種を同定する。そこにFGFやPDNF、BDNFなどの既知の増殖・栄養因子を添加し、虚血感受性細胞の生存・分化促進因子を検索する。この研究で得られた虚血感受性細胞の生存・分化促進因子を、虚血・再灌流モデルラットに投与することにより治療効果を判定する。さらに、最も副反応が少なく、脳障害予防の効果が期待できる投与時期、投与量・濃度を検討する。
安定したモデルの確立に時間がかかり、モデルを使っての検討が遅れている。当初予定していた抗体の購入も次年度とした。当初の予定の通り、実験動物・飼料、抗体などの免疫組織学的検討の関連試薬、生化学的検討の関連試薬などに用いる。
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Early Human Development
巻: 89 ページ: 283-288
10.1016/j.earlhumdev.2012.10.007