研究課題/領域番号 |
25860923
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 八戸工業高等専門学校 |
研究代表者 |
森 大祐 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (50451539)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 臍帯血流 / 計算流体力学 |
研究概要 |
臍帯血管の最も顕著な特徴はそのコイル構造(捻転)にある.さらに,胎児は胎内において活動しており,その動きによって臍帯が胎児の体の一部に巻きつく場合(巻絡)などがある.このような状態では臍帯血管のコイル形状のら旋の中心軸は一直線ではなく,明らかに曲線を描いているが,そのような複雑な流路内の血流については詳細に知られていない.そこで,計算流体力学的手法により臍帯の捻転のみならず巻絡を模擬した流路モデル内の流れを解析し,捻転および巻絡が臍帯動脈血流に及ぼす影響を調査した. 臍帯動脈を三次元剛体壁のコイル状の管と仮定した.臍帯の全長に対するコイルの巻数の比を,出生後に測定された平均値0.21 coil/cmを参考にモデルを作成した.コイル形状のら旋中心軸が一直線である流路モデルを基準モデルとし,これに対し,ら旋中心軸を半径が異なる各種の円弧とし,巻絡を模擬した流路モデルを作成した.分娩に近い時期の胎児から胎盤への血流量265 mL/minに従い,管直径,および,流入速度を代表値としたレイノルズ数がRe = 424となる条件においてシミュレーションを行った 各モデルはいずれもら旋流路であるため,曲がり管で見られる双子渦を基本として,流路の捩れの影響を受け左右非対称な二次流れの分布を示すが,巻絡の度合いが増すにつれ流れの非対称性がより顕著に現れた.これは,ら旋流路の中心軸自体が曲率を有しており流れに対してより強い遠心力の効果を与えたためと思われる. 壁面せん断応力の分布パターンは定性的にはモデル間で大きな違いは見られなかったが,定量的には,基準モデルに比べると,巻絡モデルではら旋の1ピッチ中に壁面せん断応力プロファイルの変化がより顕著に観察された.巻絡を模擬した場合には断面の円周方向のみならず流路の軸方向にも有意な壁面せん断応力の変化があり,より局在的な分布を引き起こることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に設定した研究課題は1「捻転する臍帯血管モデルの計算流体力学的解析」,および,2「蛇行しながら捻転する臍帯血管モデルの計算流体力学的解析」であった.前者の研究課題1については,捻転の度合いが異なる螺旋状の流路を持つ形状モデルを作成し、その内部の流れの計算流体力学的解析を実施した.当初予定していたとおり,形状モデルを作成するための入力パラメータを螺旋半径,動脈半径,螺旋の勾配角度とし各種の捻転度を有するパラメトリックな臍帯血管の形状モデルを作成する手法を確立し.計算流体力学的解析により得られた結果から捻転度の違いが血流にどのように影響するかを調査することができた.後者の研究課題2については,研究課題1では蛇行せずまっすぐであると一次近似した臍帯血管モデルを考えたが,胎内で有意に蛇行したより複雑な臍帯血管モデルをパラメトリックに作成する方法を確立することができた.これにより,捻転かつ蛇行する臍帯血管の形状が血流に及ぼす影響を調査することができた.このことから,交付申請書に記載した「研究の目的」をおおむね達成したと自己評価する.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に設定する研究課題は1「個別胎児臍帯血管モデルの計算流体力学的解析」,および,2「臨床応用可能な超音波臍帯血管血流計測シミュレータの開発」である.前者の研究課題1においては,千差万別である個別胎児のリアリスティックな臍帯血管モデルを構築し臍帯血流の計算流体力学的解析を実施する.臨床医療現場で得られる胎児断層画像を基に3次元リアリスティックモデルの作成を行う.モデルの構築は胎児断層画像より臍帯血管像を抽出し螺旋半径,動脈半径,螺旋の勾配角度などの形態的特徴量を測定し,平成25年度に構築したパラメトリックな理想モデルの内最も近似度の高いモデルをテンプレートとして使用し修正することにより行うことを計画している.これにより効率的に個別胎児臍帯血管の3次元リアリスティックモデルを構築する予定である.後者の研究課題2においては,得られた計算流体力学的解析結果をデータベースとして整理し,臨床医療現場において援用可能なシステムを構築する.超音波血流計測を実施する検査技師が手技のトレーニングとして使用したり、医師が超音波血流計測を基に診断を行う際に計算解析結果を提示し定量的評価を支援することが可能なシステムの構築を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定として,数値流体力学解析用の計算機システムの整備・維持・管理に必要なCPU,計算機用ストレージ,周辺機器,関連ソフトウェア等に約500 千円の物品費を,研究成果発表の学会参加のための旅費として約100千円を計上していた.しかしながら,計算機は既に構築済みの並列計算機システムを使用したこともあり,そのシステムの運用に必要な経費は当初予定より少なく約400千円となった.また,当該年度中に研究成果発表を実施することが出来なかったため,旅費として予定していた約100千円を使用しなかった.その結果として,計約200千円の次年度使用額が生じることとなった. 次年度使用額約200千円と翌年度分として請求した助成金1,600千円を合わせた約1,800千円の使用計画としては,1超音波診断装置一式に約1,000千円,2計算機システムの運用に約400千円,3旅費に約100千円,4流れ計測用実験装置一式に約300千円を計画している.1~3は当初より予定していた経費である.ただし,2は平成25年度の実績を考慮し減額している.4は本課題研究を今後遂行するにあたり計算的手法のみならず実験的手法によるアプローチの必要性が出てきたため,そのための実験装置構築のための経費(物品費)である.
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