研究実績の概要 |
樹状細胞(DC)は強力な抗原提示細胞であり、腫瘍に対する免疫応答において重要な役割を果たす。しかし、腫瘍浸潤DC(tumor infiltrating DCs, TIDCs)の経時的な動態は、はっきりとはわかっていない。そこで、マトリゲルに溶かしたB16メラノーマをマウス皮膚に接種することにより、腫瘍発育早期から経時的にTIDCの動態を解析した。
腫瘍発育早期には多くのCD11C陽性・MHC classII陽性のTIDCsが認められ、活性化したフェノタイプ(CD86陽性)を示していた。さらに、腫瘍発育に伴い、TIDCsのアロT細胞刺激能は増加し、免疫抑制性の表面蛋白(VEGFR-2, PD-L1)の発現は減少していた。B16メラノーマと、異なる時期に回収したTIDCsを同時にマウス皮膚に接種すると、腫瘍発育早期に回収したTIDCsは腫瘍発育を亢進し、逆に晩期に回収したTIDCsは腫瘍発育を抑制した。さらに、早期のTIDCsを同時に接種した腫瘍では、腫瘍環境や腫瘍内CD8T細胞のIFN-gやgranzyme B, perforinが減少し、晩期のTIDCsを同時に接種した腫瘍ではそれらが増加していた。
腫瘍が生体の免疫応答から逃れて生き延びるために、DCの様々な機能を障害することはよく知られるが、腫瘍発育直後からTIDCsを観察すると、初期は免疫抑制的であったTIDCsの機能が腫瘍発育とともに免疫を増強する方向に変化する、という逆の結果が得られた。従来の研究とは観察する時期がかなり早いことから、さらに腫瘍が発育していくと再度腫瘍によりTIDCs機能が抑制される可能性はあるかもしれない。腫瘍に対する免疫応答において、腫瘍環境と樹状細胞の相互作用は経時的に変化しており、免疫療法などの治療においてはその変化の把握は重要であると考えられる。
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